イソップ株式会社

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2021年6月19日

44 井之上ひさし 和田誠 中央公論社

駅前の様々な店舗の入った複合ビル。駅からの帰り道にそこを通り抜けることがあるのだが、まずいことに、たまに一階のフロアで古書フェアをやっている。見つけたら最後、覗かずにはいられないし、覗いたら最後、なにか買わずにはいられないのは困ったもんである。

そういうわけで、たまたま通りかかったワゴンに並んでいた文庫本の中から、これを掴んでしまった。和田誠の挿絵がたっぷりはいっていて眺めるだけでも楽しい。井上ひさしだから、イソップ物語のパロディか何かかな、と思って買ってしまった。新刊と同じくらいきれいなのに743+税が200円。お得と言えばお得ですな。

パロディではなく、ちゃんとしたお話だった。読売新聞に挿絵付きで連載されていたらしい。中1のお姉ちゃんと小4の弟がおばあちゃんの住む田舎で過ごす夏休みのお話。お父さんはイソップ株式会社という絵本の出版社を営んでおり、自社の絵本の売り込みのため海外へ出張する。子供たちに毎日お話をひとつずつ作ってあげると七年前になくなった母と約束してあって、それを実行している。子供たちのところに、毎日お話の書かれた手紙が届くのだ。そこに村の人や、出版社の編集者、弘子さんなども関わってくる。

作品の中で毎日違うお話が語られ、それが時に連続物になったりして、なかなか楽しい。井上ひさしはこういう物語展開が好きだったよなあ、なんて思い出す。井上ひさしに対しては複雑な思いもあるのだが、やっぱりこの人は物語を語らせたらすばらしい。

それにしても、この本の価値は、和田誠の温かいきれいな色の挿絵があってこそだと思った。いい絵だったなあ。