エセルとアーネスト

エセルとアーネスト

98 レイモンド・ブリッグズ 小学館

レイモンド・ブリッグズを初めて知ったのは「さむがりやのサンタ」だったと思う。漫画のような細かいコマ割りの中に進展する物語は、温かくユーモラスでたのしかった。サンタはそれから夏休みも取ったっけ(サンタのなつやすみ)。映画「風が吹くとき」は確かジブリの同時上映だったような記憶がある。でも、私が一番好きだったのは映画「スノーマン」だ。セリフがひとつもないまま、少年の雪の日の一日が描かれる。たぶん、最初に見たのはどこかの家電店か何か、街の中で、ふと見始めたら動けなくなり、最後まで見てしまったような覚えがある。

この絵本は、レイモンド・ブリッグズの両親の物語だ。牛乳配達のアーネストは、メイドのエセルが窓で黄色い布を振っているところに通りかかり、手を振り返す。それから毎朝、手を振りあう内にひかれあい、結婚する。決して裕福でない彼らのそれからの生活。苦労して家を買い、子どもが生まれ、世界はきな臭くなり、戦争がはじまり、そして終わる。子どもは願ったような仕事にはつかず、ぼさぼさの髪で美術なぞというよくわからないことに夢中になり、あまり願い通りではない女性と結婚する。でも、彼らの生活はつづき、そして、病み、亡くなるまで。丁寧な生活や会話が描かれる。

本当に何でもない毎日なのに、エセルもアーネストも温かく、生きている。読んでいると彼らがどんどん好きになる。ごく普通の庶民、何でもない人たちなのに、なぜ心打たれるのだろう。作者がこの二人を大好きで、心を込めて描いたのだということが、静かに伝わってくる。

良い絵本だった。

これも夫が借りた本。たぶん、例によって「モトムラタツヒコの読書の絵日記」からだと思う。モトムラさんには、本当に感謝だ。