105 エリザベス・ストラウト 早川書房
長い間の本読み友達でもあるおはなしてこいさんが教えてくださった本。教えてくださってありがとう。
アメリカの片田舎、海辺の小さな町に住む元数学教師のオリーヴ・キタリッジ。人の良い夫との静かな日々の物語かと思っていたら、なんだか様子が変わってきて、毒や怒りや悲しみやおかしみがじわじわと押し寄せて、あふれて、ああ、人間ってこういうもんだよな、と身につまされ、最後には泣き笑いしたくなってしまった。
短編が集まっていて、様々な人物が登場する。どの章にもオリーヴ・キタリッジが現れる。大きな役割を果たすときも、ただちょっと通り過ぎるだけの時もあるのだけれど、全体として彼女という人間が浮き彫りになってくる。いろんな人が、いろんな悩みを抱えて、でも、それなりに毎日過ごしているんだよな、としみじみ思う。このリアリティはなんだ、と驚いてしまう。一人一人の人物像がとてもリアルで生き生きしていて、嫌いになれない。悪い奴もいるのにね。
オリーヴ・キタリッジが、中年から始まって72歳くらいまで。ああ、私もこんな風に齢を取るんだろうか、とちょっと遠くを見てしまう。私は、息子が遠くへ行ってもこんな風にはきっと嘆かないわ、でも、夫が倒れたら、こんなではいられない、などなど、自分に引き付けていっぱい想像してしまった。ちょっと怖くもあったな。
人を描く、という意味でとても優れた物語。ほかの作品も読んでみたい。人は、正しいとか美しいとかじゃなくて、いいことも悪いことも困ったこともダメなことも含めて生きてるものだし、人生ってそれでいい、そういうもんだよなー、と改めて思った私である。