ギブスと松葉杖

ギブスと松葉杖

2021年7月24日

事の起こりは、とある夜。
雨の中、おちびをピアノ教室までお迎えに行こうとして段を踏み外し、左足を、思いっきりひねってしまいました。

真っ暗だったし、雨も降っていて、一人で帰らせるのは心配だったから、足を引きずって迎えに行きました。帰ってきたら、もう、足首がぼんぼんに腫れています。氷嚢で冷やし続け、寝るときも足の下にクッションを2つ入れて高くして寝たけれど、朝も内外両方のくるぶしが見えないほどに腫れていて、歩行困難。翌朝、病院へ行ったら、幸い、骨は無事でしたが、骨周辺に出血していて、かなりひどい捻挫、とのことでした。

そこで、質問。
ギブスをした方が治りが早いですが、嫌がるひともいるので、そういう場合は包帯とテープで固定もします。どうしますか?

と、聞かれたら、何と答えます?

そりゃギブスでしょうよ、と私は思いました。
痛かったんです。
ナマコのようにぐにゃぐにゃした感じの患部を、うっかり蹴飛ばされたり踏まれでもしたら、どんなに痛かろう、と思うと、恐くもありました。
うちには、元気印がいますしね。
かっちり、患部を固定してしまえば、足の位置を変える度に痛くて飛び上がることもないだろうし、不便と言っても、松葉杖を使えばいい。
夏じゃないから、そんなに暑くもないだろうし。
治りが早い方がいいに決まってるじゃーん。

しかーし!
ギブスって、たいへんなのね。
安定性が無いから、足をつくと、ころっと行きそうで怖い。
スネの途中まで固めてあるから、うっかり転ぶと、そこでぽきっと行きますよ、なんて脅かされる。
たしかに、固定されて、痛みは軽減したし、外部に対してのディフェンスも万全。
でも、松葉杖って、全然役に立たなーい!!!

いやね、歩く分にはいいんですよ。
両サイドを支えて、足を前に持っていく。
上手だってほめられましたよ、どうせお世辞でしょうけど。
だけど、ものを「持ち運ぶ」って、どうすりゃいいのーん。
松葉杖で、両手ふさがってるんですよ。
モノを持ったら、杖が持てない。
杖を持ったら、モノが持てない。
洗濯物を取り込んで、これを部屋まで持っていこうと思っても、杖を持ったら、洗濯物が、洗濯物を持ったら、杖が邪魔。
階段を登ろうにも、階段はこーんなに狭い。
段に杖をつくのが怖い。
幸い、階段には手すりがあるから、手すりにすがって登れます。
でも、じゃあ、松葉杖はどうするの。
下においたまま?
松葉杖を持つと、手すりが持てないのよ。どうするの。
うちが二階じゃなかったらなあ。
エレベーターがあったらなあ。
三階建ての低層住宅の悲哀ですわ。

膝をついて、這いずってみたら、膝が痛い。
手を壁に突っ張って歩いてみたら、手が痛む。体操座りで、ずるずるいざる、のが一番良さそうだけど、おしりが冷えます、ひきつれます。
恐る恐る、ギブスの足をそうっとおろしながら、半分けんけんで移動していたら、膝が痛みます。けんけんの足が筋肉痛になります。
とほほほほ。

たかが足首ひとつ。ほかは全部元気なのですよ。なのに、体のすべてが影響を受ける。そうか、そういうことだったのか!と、わかることが沢山あります。
足の不自由な人の気持ち。
障害があって、人に助けて貰う人の気持ち。
どんなに時間がかかっても、自分でできることは、自分でやりたい、という強い気持ち。
そして。

つい最近、亡くなってしまった私の友人は、晩年を、ソファに座って過ごしたそうです。
辛かっただろうなあ。動きたかっただろうなあ。
動けない、何もできない、ってのが、こんなに辛いとは知らなかった。

2010/4/17