ケーキ嫌い

ケーキ嫌い

16 姫野カオルコ 光文社

「リアル・シンデレラ」の姫野カオルコである。何冊か読んでどんどん好きになる作家。この本は小説じゃなくてエッセイなのだが、もう、共感しまくりなのである。

若くて貧乏な頃、日替わり定食のある喫茶店のランチに通い詰めたら、オーナーのご夫婦が食後に手作りのケーキやアイスクリームを「デザートよ。サービスだから」と出してくださった。小学生のころ、学校行事の準備のお手伝いをしたら、担任が「ご褒美やで」とクリームパンをくれた。40歳ごろ、お隣に引っ越してきたスウェーデン人がお近づきのしるしに、とハーゲンダッツのアイスクリームを持ってきてくれた。「あなたがきっとアイスクリームが好きだと信じて持ってきました」と英語で言いながら。これらのエピソードを彼女は悲しく語る。自分に親切にしてくれた人、失礼があってはならない人が自分にケーキ(の類の甘いもの)をくれるという状況。困って、困って、困ってきた体験である。ケーキが嫌いだと言えないから。「世の中にケーキが嫌いな人はいない」とみんな考えてるかもしれないけれど、いるよ!!と彼女は書く。

あー、わかるー。と私は激しくうなずく。小学校の遠足で100円までと決まったおやつをみんなワクワクしながら買いに行く。でも、私は人と交換しやすいもの、誰かがおやつを好意で分けてくれた時に無難にお返しできそうなものを基準に選んだ。だって、お菓子が好きじゃないんだもの。嫌いじゃないけど、食べたいと思うほどじゃない。だから、遠足のおやつは、友達がくれた時にお返しに渡して、残りは家で待ち構えている姉の口に入った。それでよかった。だから、姫野カオルコの気持ちは、よーくわかるのである。

そんなケーキ嫌いのエピソードからこの本は始まる。彼女の好きなものは、総じて酒のつまみになりそうなもののようだ。これも私と同じ。各種アルコールにぴったりのおつまみのレシピも載っている。なかなか斬新で、一度作ってみたいようなものばかりである。たとえば、ウイスキーに合うのはラズベリーである、という。ファルファッレを固めに塩ゆでしてバターと岩塩で和えてラズベリーを混ぜる。名付けて「スパゲッティのガブリエル・デストレとその妹風」ですと。どう?食べてみたくない?

食へのあくなき探求心と欲求に満ちた本である。が、別にうんちくを語っているわけではない。あくまでも個人的好みを赤裸々に述べているわけで、この正直さ加減が非常に好ましいのである。安くてもうまいもの、食べる順番によってうまくなるもの。それらを切々と語る向こう側に、彼女という人間が見えてくる。