ジュリーと拓郎

ジュリーと拓郎

2021年7月24日

ジュリーと拓郎がテレビで対談していた。びっくりした。

拓郎は、ジュリーがずっと好きだったんだって。それも意外だった。あんまり熱く語るので、最初、ジュリーが引き気味だったのも面白かった。

拓郎はアマチュア時代に広島でタイガースのコンサートに行ったそうだ。そして、女の子たちがきゃあきゃあ言うのを見て、俺達のほうがうまい、俺達だってこうなれる、と思ったんだそうだ。そして、大学二年の時に渡辺プロダクションに売り込みに行って、門前払いを受けている。

拓郎がナベプロに断られていたという話は初耳だった。そういった商業主義から最も遠いところにいたのが拓郎じゃなかったのか?もしかして、そうなったのは、ナベプロに断られたから拗ねていたってことなのか?そう思うと、なんだかおかしい。

拓郎は富士フィルムのCMソングを作ってジュリーに歌ってもらったことを誇りに思ってるそうだ。俺は、ジュリーの歌を作ったことがある、と。

かたやジュリーは拓郎の全盛期、共立講堂に拓郎を聞きに行っているという。周囲には、あんなもん行かなくてもいいという人もいたし、ぜひ聞いておけという人もいた。でも、自分は興味があったから、行ってみた。行って、羨ましかった、とジュリーはいう。

ちゃんと聞いてもらってる、と思ったんだそうだ。ちゃんと曲を聞いている、客席に男性がいる、歌詞が聞こえる。自分の作った歌を歌って、それを聞いてもらえるということが羨ましかったんだそうだ。

だからよく客席と喧嘩した、とジュリーは笑った。舞台からファンに喧嘩を仕掛けるんですよ、と。なんて言うんですか?と尋ねる拓郎に、だから、聞け、というんです、とジュリー。聞くほどの曲か、と自分に突っ込みながら、でも、聞かないともっと下手になるぞ、と客に脅しをかけるんですよ、と。

拓郎はギター弾きでもある。ジュリーのバックバンドに入って、派手な衣装をつけて、歌に合わせて踊りたいと真剣に願っていたそうだ。風のうわさにお聞きになっていたでしょうかと。つまり、何らかのルートを使って、彼は本当にそれを申し出たことがあるらしい。ジュリーはそう聞かれて、しばらく黙ってから、いや、申し訳なくってそんなことはできませんよ、と答えていた。当時、ジュリーは警戒したのかもしれないね。彼らの全盛期、それぞれのジャンルでやりたい放題やっていた二人が、そんな形で相まみえるなんてことは想像も出来ないことだったから。でも、実現したら、どんなに面白かったことだろう。

ぼくはね、好きな人ができるとその人の後ろでギターが弾きたくなるんです。そう思ったのは、中島みゆきとあなただけだ。中島みゆきは「マリコの部屋で・・」という歌で弾きたかった、沢田さんの曲は、もっといっぱいある。「危険なふたり」とか、いい曲がたくさんある。と、拓郎は熱意を込めて言った。ジュリーは、黙って頷いていた。

拓郎は、妻が大阪に撮影に行っているので、生活が不便でしょうがないという。一人じゃ外食もできないんです、ATMもだめなんですよ、と。ほう、そうですか、とジュリーは驚く。ジュリーは、妻の田中裕子が撮影に行くときは、ちゃんとご飯を作ってやって、行ってらっしゃい、と玄関まで送り出すそうだ。お茶も入れる、干物も焼くし、味噌汁も作る。Suicaとパスモも持っていて、電車で稽古に通うし、振込だってできる。それって、世間が思ってる拓郎とジュリーのイメージが逆ですよね、と二人は笑う。

ジュリーは歳を取って体も丸くなって、テレビにもあまりでなくなって、自然に生活ができるようになったという。沢田研二出演と銘打つから、舞台に出ると、アレがジュリーだとみんなは認識してくれるけれど、黙って電車に乗っていても、ちょっと似た親父がいるな、としか誰も思わない。その昔、トイレにも行かないんじゃないかとか、飯も食わないんじゃないかとか、特別ないきもののような扱いを受けていたことがあって、それが嫌でしょうがなかった。だから、なんでもできるようになりたいと思ってたんだ、と。

30年以上も前に明星という雑誌で二人は対談したという。そのとき、ジュリーは二人もおつきの人がついていた。俺だって、そうなってやる、と拓郎は思ったという。でも、ジュリーはそれが不自由だったのね。拓郎は、そんなことを思っていたのね。

二人がまともに顔を突き合わせるのはこれが三回目だそうだ。次回は80過ぎた頃にしましょうか、と拓郎が提案し、いや、それはちょっと先すぎるから、70で、とジュリーが言う。それだとあと4年しかない、僕66なんですよ、と拓郎。ジュリーは64だ。年下なんだね。

高校時代、私はラジオを聞きながら、受験勉強をしていた。拓郎や小室等、井上陽水らが集まって作ったフォーライフレコードの番組を聞いていたら、小室等がげらげら笑いながら「明日、拓郎は30歳になる」と言った。「あの、拓郎が!あの、拓郎が30ですよ!皆さん。」それだけ言って、小室等も井上陽水も、げらげら笑った。大人になるはずもない奴が、大人みたいに年を取る。それがおかしくてならない様子だった。

その拓郎が、66である。私も年をとるはずだ。あんなに美しかったジュリーも、まあるく太った白髭のオヤジになった。

でも、ふたりとも歌っている。歌声も、すこしずつ衰えては来ているが、それでも歌っている。がんばれ、と私は思う。70になった二人の対談をまた見たい。そのときは、二人で歌ってほしい。盛りを過ぎた二人は、その頃よりもずっと自由で正直でいられるみたいだ。時間は、人から余計なものをそぎ落とす。失うものもあるけれど、得るものも確かにある。この番組を見落とさなくて、本当に良かった。

2013/2/12