セゾン・サンカンシオン

セゾン・サンカンシオン

2021年6月23日

45 前川ほまれ ポプラ社

依存症を抱える女性たちが生活をともにする施設、セゾン・サンカンシオン。そこで暮らす女性たちの様々な出来事を周囲の人の姿とともに描いた小説。

アルコール依存症、クレプトマニア(病的窃盗・・万引がやめられない)、覚醒剤、ギャンブル依存症・・・。様々な依存症に苦しむ女性が登場する。彼女たちは精神が弱いからやめられないのではない、それはもう病気であり、生きる苦しみが彼女をそこに追い込む。そして、そこから立ち直るのは、本当に難しい。一生をかけた仕事として、依存症と向き合い続けなければならない。

ダルク(薬物依存症からの開封をサポートする施設)にいた人の話を聞いたことがある。薬物をやめて何年も経っていても、今すぐにでもまた戻ってしまうかもしれない、と自分で言っていた。砂漠で喉がカラカラになって何日も水分をとれずにいたとき、目の前になみなみと水の入ったコップが差し出されたとしたら、あなたはそれを飲まずに我慢できますか、と逆に問われた。そんな思いをずっとずっと抱えて生きていくしか無いんです、と言っていた。

人はみんな、きっとなにかに依存せずには生きていけないのだと思う。私も家族の存在に依存して生きている。たくさんの本に依存している。楽しいこと、笑えること、おいしいものに依存している。それらなしに生きるのは、きっと、とてもつらいだろう。だけど。何かに依存することで、自分を、他者を傷つけ続けるしかないのだとしたら。やっぱりそこから脱出しなければならない。それは、ものすごく大変なことなのだ。

この小説でも、脱出がどんなに困難であるかが描かれる。かすかな希望の光は残されるけれど、それは本当に小さな希望でしかない。でも、希望がないわけではないのだ。だから、生き続けて、生き延びて、いつかその希望の場所にたどり着く、辿り着こうとする。その過程を優しく見守るしかない、という物語なのだ。それは、とてもつらい。だって人は弱いからね。弱さを認めて、受け入れて、そんな自分で生きていく覚悟を決めるしか無いのだと思う。これは、特殊な人達の特殊な話とは限らない、とも思った。