ゼロからトースターを作ってみた

ゼロからトースターを作ってみた

87 トーマス・トウェイツ 飛鳥新社

アメトークの「読書芸人」でラランドのニシダが紹介していた本。2012年初版だから、実は結構古い本なのね。

大学の学位取得のための制作で、作者はトースターをゼロから作るプロジェクトに取り組んだ。トースターを構成する部品を原材料からすべて作り上げる。そのためには鉄鉱石を取り、鉄を精製したり、石油を入手してプラスチックを形成したりしなければならない。その原料を手に入れるための移動に際しては、飛行機は不可、一般的な道具、例えば電気ドリルなどは可。

このプロジェクトの発想の元となったのは、とあるSF小説である。技術的に未発達な人間が住む惑星に不時着した未来の地球人が、彼らの社会を科学知識と近代技術で変えてやろうとするが、結局は自分では何も、トースターすら作れない。ただサンドイッチだけは作れて、その最先端食事技術がその星の人間に衝撃を与えた・・・。そこで作者は、何もない状態から、トースターを作ってみたくなったというわけ。

このあたりの動機は非常に理解できる。私も、もし無人島にたどり着いたら、自分が何が作り出せるか、見知らぬ惑星で未開の惑星人に出会ったら、いったい何ができるかを子供時代から何度も夢想したものだ。

で、実際に作者はトースターを作り上げるわけだが、鉄鉱石の精製のために母親の電子レンジを壊したり、プラスチックの精製のためにジャガイモをたくさん茹でたりしていく。ニッケルを手に入れるのには非常に苦労し、ちょっとした抜け穴を見つけたりもする。

この経過をネット上のブログに挙げていたおかげで、結構な反響もあり、出来上がった作品はギャラリーのイベントで紹介されたりもする。また、トースターを作り上げる過程で考えた様々なこともユーモアを交えて書かれているが、なかなか深い考察ではある。

軽い気持ちで読んだ割には、得たものは意外に多い本であった。アマゾンで見たら、DIYの本かと思って読んで怒っている人がいたのがちょっとおかしかった。