トリック

2021年7月24日

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「トリック」エマヌエル・ベルクマン 新潮社

 

厚い、重い、でも、これを選んで持ち歩いてよかった。一気に読めた。面白かった。と夫に勧めたら、ネタバレにならないように内容をちらっと紹介しろ、という。
 
親が離婚しそうで、心を痛めている少年がいる。彼が見つけた古いレコードには魔術師の「愛の呪文」が入っていて、それを聞くとたちまちふたりは愛し合う、という。が、そのレコードには傷が入っていて、愛の呪文が聞き取れない。なので、少年は、魔術師を探そうとする。一方、魔術師は、第二次世界大戦前にプラハで生まれたユダヤ人で、苦難を乗り越えて魔術を習得していく。少年の生きる現代と、魔術師の育つ過去が交互に描かれる。そして、ついにふたりは出会う・・・。
 
そりゃ、児童文学だな、と夫はいう。でも、違うんだな。児童文学にしてはちょっと下劣だったり、読者の理解力を要する場面が多すぎる。だけど、少年向けの冒険物語のように、ワクワクとは読める。
 
ホロコーストもでてくる、ヒトラーも登場する。でも、悲惨は悲惨なだけには描かれない。ちょっとドライで、でも、暖かく、今を生きる私達を肯定してくれる物語。滑稽だったり、馬鹿馬鹿しかったり、でも、美しかったりする人生を、ちゃんと描いている。
 
長い新幹線の時間を、全然退屈せずに過ごせたことを、作者に感謝。これがデビュー作だって。これからが楽しみだなあ。

2019/6/10