ドリトル先生航海記

ドリトル先生航海記

2021年7月24日

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「ドリトル先生航海記」ヒュー・ロフティング作 福岡伸一訳 新潮社

 

夫が今さらのように「ドリトル先生航海記」を借りてきているので、どうしたことかと思っていたら、おお、福岡伸一の翻訳なのね。ドリトル先生といえば井伏鱒二であったが。「割に読めたよ」的なことを夫が言ったので、ちょっと遠出するときの電車のお供に連れて行ったら、帰宅までにぴったり読みきれた。
 
たぶん小学校の高学年の頃であったか、ドリトル先生を次々に図書館で借りて読破していったのを覚えている。幸せであった。
 
あの頃大好きだった友達に、数十年の時を経て再開したような懐かしさだった。ろうそくを持って、階段を一段一段降りてくるアヒルのダブダブ。門のところでしっぽを振りながらも決して中には入れてくれなかった犬のジップ。ご婦人の洋装で道を歩いてきた猿のチーチー。驚くほどはっきりと彼らの姿が目に浮かぶ。私もまた、福岡博士と同じようにかつてのスタビンズ(ドリトル先生の少年助手)なのであった。
 
読み返せば、当時は気付かなかったイギリス人特有の高慢な偏見をそこここに見つける。外国人は横暴で、遠い島の原住民は火を知らず、伝染病の防ぎ方も知らない。高貴なる大英帝国の博士こそが、彼らに文明を教える英雄なのである。イギリス人って・・・と思わないではいられないが、だが、それらを乗り越えて、懐かしい登場人物(動物)たちよ!!
 
両側に頭のある馬のような動物「オシツオサレツ」を福岡先生は原文のまま「プッシュミプルユ(pushmi-pullyu)」としている。そうか!そうだったのか!とかなり長いこと考えて理解した私であるが・・・やはり、彼(ら)の名前は、私にとっては永遠に「オシツオサレツ」なのだなあ、と思う。ところで貝の「イフホフ」って井伏さんはなんて訳されていたんでしたっけ。ご存じの方いらしたら、教えて下さいませ。
 
南の島の酋長や王様に選ばれちゃうドリトル先生は「ピッピ南の島へ」のお父さんのようだし、原住民の敵をバッタバッタと倒しちゃうのは「ソロモンの洞窟」のようだし、ベタっちゃあベタな展開なのに、どうしてここまで心躍らされ、引き込まれるのだろう。大かたつむりの殻の中に入ってイギリスまで運ばれる道筋で、空気がだんだん淀んできたけれど、慣れたので大丈夫、とあって、「ほんとうに大丈夫?」と心配したことを昨日のことのように思い出した私である。
 
福岡博士がドリトル先生と出会って学者になることを決意したのはよく分かる。彼の日本語はありがちな理系学者のゴツゴツしたわかりにくいものではなくて、流れるようにわかりやすかった。ドリトル先生がすごく好きだったんだろうな、と思わせる、愛情あふれる翻訳であった。
 
 

 

2016/6/11