パリ左岸のピアノ工房

「パリ左岸のピアノ工房」T.E.カーハート

ある晩、夫が帰宅するなり、しみじみと言うのです。
「人生って、つまらないことが多いじゃない。でも、面白いこともあるんだ。」
何を言い出すんじゃ、こいつは、と思ったら、この本を指し示すわけですな。
「俺はピアノなんて別に好きじゃない。でも、面白いんだ。ピアノの話しか書いてないのに、ものすごく、面白い。人生って捨てたもんじゃない。ピアノを好きな人が読んだら、もっと面白いだろうって思う。」

はあ。そんなに面白いですか、これは。と不思議でした。地味な装丁だしね、作者は聞いたこともない人だし、そんなに新しい本でもないのに、評判を聞いた覚えもない。

でも、夫の薦め方は尋常でない。から、読みましたよ、期待して。そしたら。

面白かったんですよ。すごく。本当に、ピアノの話しか書いていない。パリのピアノ修理工房に興味を引かれたアメリカ人の作者が、そこに出入りするようになって、自分のピアノを購入して、ピアノについてたくさんのことを知り、レッスンをはじめ、ピアノを通じていろいろな人と交流する。それだけの話です。それだけの話なのに、ものすごく面白い。これは、なんだろう、と思うのです。いやあ、人生って、つまらないことが多いけど、面白いこともあるもんだなあ、と、夫の気持もしみじみわかってしまいます。

いやほんと。どんな話、と聞かれたら、ピアノのことが書いてあるんだよ、とそれしか説明のしようがない。これは、お勧め。

2007/9/15