ヒルは木から落ちてこない。ぼくらのヤマビル研究記

ヒルは木から落ちてこない。ぼくらのヤマビル研究記

2021年12月26日

118 樋口大良+子供ヤマビル研究会 山と渓谷社

夫が借りてきて、面白い面白いと騒いでいるので読んでみた。今、非常に硬い重い本(「エルサレム以前のアイヒマン」)を読みあぐねながらじりじりしていたのでお口直しのつもりで手を出してみたら、あっという間に読了。非常に面白い。興味深い。そして、なんというか、うれしい。良い本であった。

元小学校の校長先生が、子供たちを集めてヤマビルの研究をする。ヤマビルは嫌われ者なので、それを避けたい人が大勢いる。けれど、詳しい生態はよくわかっていないし、専門の研究家もほとんどいない。新しいことがわかれば、それはそのまま新発見となり、世界にも通用する。しかも、地元にはヤマビルがたくさんいる。どんどん採って観察、研究できる。身近な自然を観察することで、子供たちは科学する力を身に着け、自然の不思議さ、偉大さを理解し、それへの畏怖をはぐくむ。

ヤマビル研究会の実績は、それまで常識とされていた、ヤマビルは上から落ちてくる、というのが間違いだとわかったり、ヤマビルは鹿が広めているとされていたのがどうやら怪しいとわかったりと、確かな実績が積み重ねられている。地元のケーブルテレビやFMラジオのみならず、「山と渓谷」や「探偵!ナイトスクープ」にも取り上げられている。

なにより子供たちの研究姿勢が素晴らしい。学校の、正解に向かう学習ではない、自分たちでよく見て考え、確かめ、分析するという姿勢は、これこそが勉強であり、科学するということだ、と気が付かせてくれる。それを指導する大人たちもまた真摯で誠実で子供たちへの信頼にあふれている。

子供たちをヤマビル研究会に送り込んだ保護者達は、研究に参加するのは賛成だけれど、家にヒルを持ち込まれるのは絶対反対で、リビングの床でヒルがうねうねうごめいていると悲鳴を上げる。まあ、そうだよなあ。それに対して、子供たちはヒルをかわいいと感じて、解剖するときも、申し訳ない、痛いよね、と口に出して謝罪しながら真剣に調べる。命への畏敬の念が根底にある。良い経験をしているよね、と心から思う。

勉強するって、学問って、科学ってこういうことだよな、と思う。解剖は残酷だから学校でやらせるべきじゃないなどという議論もあるけれど、自然の中で実際にいろいろな体験をしながら、自分の手で確かめていくこと、考えることってものすごく大事だと思う。

地味だけれど、とてもとても良い本であった。大人も子供も読んでほしい。

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サワキ

読書と旅とお笑いが好き。読んだ本の感想や紹介を中心に、日々の出来事なども、時々書いていきます。

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