プロペラを止めた、僕の声を聞くために。

プロペラを止めた、僕の声を聞くために。

2021年7月24日

DVD「プロペラを止めた、僕の声を聞くために。」 千原浩史 千原靖史 渡辺鐘

2003年10月収録のコントライブです。「1人の千原ジュニアと6人の放送作家」「15弱」より三年前。この二つのDVDで「参った」と思っていましたが、それは甘かった。これは、さらに、すさまじくもすばらしいできです。

千原兄弟に、ジャリズムというコンビのひとり渡辺鐘が加わった舞台です。脚本、演出は千原ジュニア(浩史)。天才です。こんなすごい存在がいる事に気づかなかった日々が悔やまれる。気づいていよかった。改めて、思いました。

「15弱」は、多少深いところはあるにしても、実に楽しめるコントでした。ですが、この「プロペラ」は、深い。深すぎる。これを見てあんまり笑えない人もかなりいるでしょう。それから、大笑いする人がいて、そして、笑いながら、最期に泣いてしまう人がいます。私のように。

9作、コントが入っています。誰でも笑えるようなものも、あります。「ハンニバル」ばりの、かなり怖いモノも、あります。「ダンボ君」というコントは、ぞくぞくっとします。容赦が無いです。ですが、最期の「お母さん」というコントは・・泣きます。本当におかしい設定で、笑うしかないはずなのに、終わってから、泣いている自分に気づきます。

8歳までヘリコプターに育てられた少年、こぷた。設定だけで、支離滅裂でしょう?でも、この愛は、一体、何なんでしょう。こんなに繊細な、身にしみる愛情って。
これは、文学です。いつまでも余韻が残って、心が痛いです。

特典映像も、楽しめました。最期の打ち上げで、「お疲れ様でした」と乾杯の音頭を取るジュニア。そして、おにいちゃんの靖史が楽しそうに、誇らしそうに「オレの弟、おもろいもん、作るやろ?」と声をあげます。そこで、おしまい。靖史の存在の大きさも、一緒にわかります。

文学が、お笑いよりも優れた芸術だとは、思わない。人間の真実を鋭く見つめて、それを深く表現するのが文学なら、お笑いも同じです。だから、私は「プロペラ」をまるでひとつの詩の様に深く味わい、感動したけれど、それは、やっぱりお笑いとしてすばらしいことなのだと思います。

だけど。これが、たとえば演劇と言うジャンルであるなら、何らかの賞の対象にもなったでしょう、戯曲賞も取ったかもしれません。文学なら、名のある賞を受けて、絶賛されたかもしれません。でも、お笑いライブだから、ごく一部の人にしか、知られていない。その一部からは、カリスマ、天才と絶賛され、あっという間にチケットは売れ、全国からライブを見るために集まってくるというのに。

お笑いなんて、そんなものかもしれません。ですが。私は、この才能と出会えたことに震撼していますし、もっと多くの人に知ってほしいと思います。もったいない。この才能を、埋もれさせたままでいるのは、本当に、もったいなく、残念なことです。

2007/4/4