三千円の使いかた

三千円の使いかた

2022年7月29日

100 原田ひ香 中央公論新社

「ランチ酒」シリーズの原田ひ香。面白かった、よかった、という話をどこかで見かけた覚えがあったので読んでみた。

人は三千円の使いかたで人生が決まるよ、という祖母の言葉から物語は始まる。主人公とその祖母、母、姉や周辺の人々のお金の使いかたを中心にストーリーが展開する。そこに夫婦の関係性や年金や奨学金の返済、女性の働き方などなどの問題が絡まっていく。

なんかこういうテーマの小説が増えたなーと思う。それだけ多くの人が切実に抱えている問題なんだと思う。女性が仕事を続けること、子どもをもって育てること、その問題への男性の理解の薄さ、社会の在り方などなど。確かにそれが自分ごととして捉えられるからこそ読まれていくのだろうけれど、どこか掘り下げが浅い。ストーリーがステレオタイプでご都合主義なところがないかい?と思ってしまう。

それと私が引っ掛かったのは、薄給だけど誠実な夫を持つ主人公の姉が、いつかハワイに行くという目標を立てる場面。ハワイはコスパがいい、と彼女は言う。インスタやツイッターに映えるきれいな写真が撮れる。有名で皆が喜ぶお土産が買える。適度にうらやましがられるが、恨みや嫉みを買うほどの特別な場所でもない、と。なんだか、そこを読んだだけでうんざりしてしまった。全部、「人からどう思われるか」のためじゃん。自分がそれを満喫し、あじわうのではなくて、人に見せびらかしたり、認めてもらうことが目的じゃん。なんだそれ、そんなことのためにハワイに行って、それが楽しいのか。

主人公が最後に突き当たる奨学金の返済問題についての解決方法も、ネタバレになるから詳しくは書かないが、本当に良い選択なのか、疑問が残る。少なくとも、借金返済における鉄則には反している。金融機関で債務超過問題を担当したことがあるので知っているが、この本で選んだ方法は、結構な割合で破綻している。詰めが甘いんじゃないかなあ。

身近に、金銭管理ができない人間を一人知っている。その人は、三千円もらったら、すぐにあるだけパーっと使って、次の瞬間にはもう忘れている。それでお金が足りなくなっては周囲に迷惑をかけるのだが、何が問題なのかに全然気が付けない。一方、私はとりあえずお財布に入れて、必要があるときに、あ、あの三千円があったっけ、と考えるタイプだ。全然違うよなー、と思っていた矢先のこの本だったので、その人にこの本を読ませてみたい気がした。読まないだろうし、読んだところで自分に生かすことはないと思うけどね・・・。

賃金が上がらず、物価だけがひたひたと上がって、学費もやたらと高くなったし、スマホ代とかサブスク代とか、昔は全く発生しなかった固定費も増えている。そして、年金も先行きが怪しい。女性もどんどん働かなければならないのに、家事育児介護は押し付けられっぱなし。そりゃ、こういう物語が必要になるよね。それは、わかるんだ。だけど、本当は、世の中が変わって行かなきゃいけない。みんなもっと真剣に投票に行かなくちゃ。と言っても、あと三年間、私たちは投票すらできないんだなあ・・・。絶望的。