人間晩年図鑑1990~94年

人間晩年図鑑1990~94年

2022年2月1日

15関川夏生 岩波書店

子供のころの読書の記憶に人名事典がある。立派な辞典なんかじゃなくて、ボール紙の薄っぺらい緑色の表紙がついたポケットサイズの安っぽい本であった。誕生日プレゼントに何か買ってやると言われて、それなら本が良いと言い、本屋で選びに選んだのがそんな本であった。

人名事典というのは古今東西の有名人…と言っても、子供向けであるから、紫式部とかリンカーンとか、そういった人たちの名前と、どんな偉業があったかくらいが載っているだけなのだが、なぜか物語の項目もあって、いろいろな物語の主人公たちの名前も並んでいた。どんなことをした人かが書いてあるということは、つまり物語がものすごく簡単にダイジェストされて載っていたということだ。

その本が私は大好きだった。世の中には本当にいろんな人がいて、そりゃもう、ものすごくいろんなことをやっていて、いろんな人生があって、それぞれに認められているということも、それから、まだ読んでいないいろんな物語にはすごく楽しそうなものもある、ということも、その本は教えてくれた。安易なダイジェスト本だったが、それが私の読書人生を決定づけたのかもしれないとさえ思うほどだ。

「人間晩年図鑑」は関川夏生がその年に死んだ人をピックアップして、どんな死に方だったかからさかのぼってその人の人生を描いている。一人の人物から派生して、関係者各位の死に方やら人生までもが描かれている。ずいぶん悪趣味な本だと思われる向きもあろうが、もともとは山田風太郎の「人間臨終図鑑」という本があって、これとほぼ同じつくりであった。そして、そちらのほうも、私の愛読書であった。

人の生きざまも死にざまも、私は好きなのである。結局、多種多様な人間がいて多種多様の人生を送り、多種多様の死に方をする、という事実を知ることが、なぜか心を安定させる。どんな人間だって生きていていいんだという安心感につながっているのだろうか。自分でもよくわからない心うちである。子供のころ、人名辞典に夢中になったのと、ほぼ同じ感覚で、今は人の死に方の本を読んでいるような気がする。

それにしても関川夏生はなぜ山田風太郎の跡を継ごうなどと考えたのだろうか。「衣鉢を継ぐ」という言い方をしていたが。関川夏生は若いころによく読んだが、最近だと鶴見俊輔の聞き書きくらいしか読んでいない。いい書き手なのに何をしてたのか、と思ったら、これをやっていたのね。最近発見して驚いた。

まだこれは1990年代前半に死んだ人の本であり、現在に至るまで、ずーっと続編が書かれているようだ。そして、読む気満々の私である。延々と人が死ぬ話を読むのか、と自分でも悪趣味に思うが、人間の死亡率は100%である、とかの山田風太郎も言っていたではないか。あなたにも、わたしにもいずれ来るその日のことなのだから、心して読もうぜ、と思うばかりである。

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サワキ

読書と旅とお笑いが好き。読んだ本の感想や紹介を中心に、日々の出来事なども、時々書いていきます。

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