仏果を得ず

仏果を得ず

2021年7月24日

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「仏果を得ず」三浦しをん 双葉文庫

中学の図書室が、耐震工事のために、今月から休館になってしまった。生徒たちは全員、いったん借りた本を返さねばならないのだが、その後の引越し作業やら管理保管を担当する我々図書ボランティアは、見返りとして、その期間中、思い切り本を借りられるのだ。というわけで、五冊ほど大喜びで借りてきた、その一冊がこれ。

読み始めて最初の50ページくらいで、なんだ、そのう、異性間に執り行われるある種の行為の名称が、何度も連呼されているので、いいのか?中学の図書室に置いて、とやや不安にもなったが、全体としては極めてさわやかな青春小説ではある。まあ、いいか、とおばちゃんは思うのだ。

文楽の物語である。人形浄瑠璃の義太夫を語る主人公の愛と成長の物語である。って、何だ、その題材は、と思ってはいけない。読んでいると、どんどん文楽ってステキ、と思えてくる。浄瑠璃、最高、って思ってしまう。(本当か?)

私は、学生時代に一回、文楽を見たことがある。でも、そんなに、はまらなかったなあ。面白くはあったのだけれど、自分のお金で見に行きたいと思うほどにはならなかった。歌舞伎は、すっかり好きになったんだけどね。

しかし、奥が深い、文楽は。物語も、上辺だけで受け取ってはいかんのだなあ。経験を積み、深く人を理解してこそわかる物語も、ある。

主人公は、思いがけない相手と恋に落ちて、思いがけない三角関係にも陥るのだけれど、この人達が、誰も皆、愛せる人たちで素晴らしい。とりわけ、ミラちゃんの愛らしいことと言ったら。

騙されたと思って、一度読んでみて。損はしないと思う。

2012/6/10