佐野洋子対談集

佐野洋子対談集

2021年7月24日

159
「佐野洋子対談集 人生のきほん」
佐野洋子 西原理恵子 リリー・フランキー 講談社

武蔵野美術大学出身の三人の対談集。実に貴重にして、二度と見ることのできない組み合わせ。あまりに濃ゆい内容に、唸り続けてしまった。

佐野さんとサイバラは、このとき初対面らしいが、とてもそうとは思えないひど、話が弾んでいる。腹の座ったオンナが二人、話していることの凄みがひしひしと伝わってくる。

ふたりとも、自分の幼い頃から、大学に入った頃、そして今日に至るまでの人生を、あっけらかんと話している。互いに敬意を感じあっていることが、言葉の端々から伝わってくる。

サイバラとの対談が行われたのは、2007年7月。佐野さんが余命宣告を受け、ぽんと車を買った後のことだ。

 今の「命」とか「医療」って、もしかしたら間違いかもしれないと思うわけ。人は自然に死んでいくものであって、人の臓物を勝手まで生きるということは、それはもう私は命じゃないと思う。(中略)
片方で人の臓物を勝手自分の子供にやってるのに、片方では飢えて死んでる子がいるわけじゃない?そしたらそれを同じ生命とは、私は言えないと思うのね。買ってる方は「命じゃない」と思うし、飢えてる子に対しても、私は特別同情心は持たない。
そりゃかわいそうなのよ。みんな、かわいそうなときもあるのよ。自分も死ぬかもしれないのよ。だから飢えてる子に、過剰な”かわいそうさ”というものは持ってないね。
飢えた子どもって、こんなにお腹がふくれてきちゃってるじゃん。それは自分のせいじゃないわけよね。そういうところにたまたま生まれあわせちゃっただけじゃない。それで死んでいく。そこで生まれたことを全部ひっくるめて受け入れるのが「命」だと思うのね。だから私は、臓物を取り替えたりする方が不自然で、飢えて死ぬほうが自然だと思うね。命って、そういうものだと思う。(中略)
だからたとえば私は、四歳で死んだ弟の一生が短いとは思わないの。四歳の中に四歳という時間が詰まっていたから、それはそれで完璧な四歳の死だと思う。

この時の佐野さんだからこそ言える、佐野さんにしか言えない言葉だと思う。サイバラは、そんな佐野さんの言葉に、「わかります」と頷き続けている。

佐野さんの手にかかると、谷川さんも、お気の毒なくらい、かたなしだ。
佐野さん、こんなことを言ってるのよ。

私ねー、二度目の結婚相手から、「あなたには、人から影響を受ける能力がない」と言われた。その人は、私に影響されるということが目的で、私と一緒になったような人なのよ。それは、浅はかな知恵よ。

そうやって自分は一生懸命だったわけよね。それで、「あなたはなにかぼくに影響された?」ときくわけ。それだけど、考えてみたら、なーんにも影響されてないの。それで私、「ない!」って言ったらさ、「人から影響を受ける能力がないんだ」って言われちゃった。あの人、自分が私に影響を与えてないということで、もしかしたらショックを受けてたのかもね。
私、自分が影響を受けたことをずっと考えて、ひとつくらいは、と思って言いましたよ。「あ、わかった。あんたと一緒になって、ガスの元栓、閉めるようになった」って(笑)。

(引用はすべて「佐野洋子対談集 人生のきほん」より 佐野洋子 談)

佐野さんと対談する中で、サイバラも、その凄みを見せている。鴨ちゃんの話も、佐野さんの前では、あまりウエットではなく、それが返ってリアルに感じられた。

リリー・フランキーとの対談は、女たちの対談がすごすぎて、あんまりぱっとしなかった。本当は二回に分けて対談するはずだったのに、リリーさん、体調を崩して入院しちゃって、治ったら、もう、佐野さんにあえなくなっていたのでありました。
残念だったなあ。

佐野さん。
すごいです。
大好きでした。

2011/11/29