「北への旅 なつかしい風にむかって」椎名誠 PHP 6
椎名誠の旅日記が好きだ。どこへ行っても、そんなにものすごいことをやっているわけじゃない。だけど、ちゃんとその土地を歩き、その土地の風に吹かれ、その土地のものを食べている、そんな感じがする。モノクロの写真も、静かな味わいがあって、いい。
しんとした風景、暖かく柔らかな本物の笑顔。
日本には、まだこんなに美しい場所が残っている。
この本は、北東北、青森と岩手と秋田を回った記録だ。とりわけ、宮古の浄土ヶ浜を、彼は絶賛して、この本の中でも、なんども取り上げている。
ぼくは最初この浜を一望したとき、三〇年代の頃の我が青春時代の海の風景を見ているような気分になった。
こういう夢のような静かで美しい海岸がいつまでも変わらずに残っていてほしいと思った。
(引用は「北への旅」より)
これは、本当に、夢のような本になってしまったのかもしれない、と読み終えて、思う。ここに出てくる温かい人達は、いま、どこでどうされているだろう。
この土地の人たちが、また、こんなふうに笑えるように、こんな美しい風景が取り戻せるように、いま、私たちができることは何だろう。忘れずにいたい、と私は思う。
2011/4/8