14歳

14歳

2021年7月24日

「14歳」(千原ジュニア)幻冬舎がベストセラーになっているらしい。
通常、ベストセラーには手を出さない私だが、この本は気になっていて、早々に買って読んだ。まさか、ここまで話題になるとは思わずに。

千原ジュニア。京都の某名門中高一貫中学に入学するも、14歳の時に引きこもりとなり、四歳年上の兄に誘われて、高1で高校中退、NSCに入る。若干18歳で二丁目劇場を仕切り、「二丁目のジャックナイフ」などと呼ばれカリスマ扱いをされるが、東京進出後は、それほど知名度を上げることもなく、ただ、一部のお笑い通からは天才と呼ばれている。急性肝炎、バイク事故で二度生死をさまようが、再起。兄と「千原兄弟」のコンビを組んでいる他、ピン芸人としても、俳優としても評価されている。

「14歳」は、青臭い本なのではないかと警戒していたが、全然そんなことはなかった。自分の進むべき道を必死で探して、一人、部屋にこもりつつ、出たい出たいと願っていたその気持ちが、痛切に伝わってくる。屁理屈をこねたりせず、まっすぐに自分と向き合っている姿に、共感を覚える。

自分が周りと違っていること、自分は正しいと思うのに、それをきちんと伝えることができなくてあがいていること。うまく表現できなくて、引きこもったその時期は、本人が「ぜいたく病」と後に評するように、きっと甘えていたのだとは、思う。けれど、その中で、自分と向き合って考え続けたことが、彼の原点となり、純粋でまっすぐな心のありようを今も支えていることが、伝わってくる。

自分のそのころを思い出して、胸が熱くなる。私のようなおばさんでさえ、そうなのだから、今、同じように苦しんでいる同じ年代の子ども達には、きっともっとストレートに伝わっていくのではないか。多くの子ども達が、この本を支持するだろう。

彼は、自分の道を見つけて、そこへ進む勇気を持っていた。部屋を出る力を持っていた。きっかけを作ってくれたお兄さんもすばらしい。中卒で、そんな世界に歩んで行くことに危惧を感じつつ、最後に「がんばって」と送り出した親の気持ちにも、想像しただけで、涙が出る。

VDV「囚(トラ)」を見た。

一人で行ったライブ。彼の鋭さ、繊細さ、純粋さ、キレのよさ、センスのよさが光る。自然な所作と、表情の美しさ。(交通事故で顔をめちゃくちゃにして、整形で直したが、かつての顔ではない。にもかかわらず、その笑顔はすばらしい。)もう、こうなると、おばちゃんの妄想が入ってきているのだと思うが、その芸、動き、表情が、なんときれいな芸人なのかと感嘆してしまう。

すっかりほれ込んでしまって、ついに、ルミネtheよしもとの舞台まで、見に行ってしまった私である。プロデュース公演で、小説家を詐称する、3日も何も食べていない会社員を演じていた。これが実に自然体で、無理がなく、けれど楽しんでいる様子が見て取れて、いいのである。いや、すごいね、彼は。

ネットって便利。千原ジュニアにすっかりほれ込んで、検索をかけると、彼の情報が、それこそ山ほど手に入る。十代のころの彼のネタも、見ることができた。若くて荒削りだけれど、今と本質が変わっていないことが、よくわかる。彼の基本は、14歳のときの部屋の中の苦悩にある。それを笑いのめす元にしているのが、なんともいえない凄みになっている。

心配なのは、彼が死に近いところにいるように見えてならないこと。本人は今を楽しみ、生きようとする意思にあふれている、にもかかわらず、生気が少ないように感じるのだ。妄想だろうか。やせこけた体、二度も命の危機を乗り越えたというエピソードが先入観を呼ぶのだろうか。どこか危うい空気が彼にはある。それがまた、凄みを増しているのだとも思えるが。

DVD「囚(トラ)」の取材に来た「ぴあ」の記者が、「最後に一言。死なないでください。」と、言い置いて帰ったそうだ。コントの中の「あんとき死んどきゃよかった」という台詞を受けてだと理解したジュニアは、「ギャグやんか。まっじめやなあ」と記者の発言を笑っていた。けれど、私は記者の気持ちが、よくわかる。そういいたくなる空気を、彼はいつもしょっているのだ。

すっかり、千原ジュニアに参ってしまったわたくし。暫くは、彼を追いかけることになりそうだ。こんなに誰かにほれ込むのは、本当に久しぶりだ。出演映画などもたくさんあるみたいだし、これからの課題が多くて、楽しみだ。願わくば、いつまでも健康で元気でがんばってほしい。本当に、ずっと生き続けるんだよ、ジュニア。

2007/3/10