半席

半席

2021年5月13日

26 青山文平 新潮社

基本的に、ミステリはそれほど好きじゃない。というのは、殺人とか犯罪とかが前提だからだ。人が死ぬ話が好きじゃないので、ミステリを読むときは用心深くなる。

この本でも、人はたしかに死ぬのだが、寿命が尽きようとしている老人や、病で余命幾ばくもない人間の最期の問題に向き合ったりしているので、血みどろの辛さはない。それは大いなる救いである。

江戸時代、御家人から旗本になろうとしている若者が主人公である。犯罪が起き、下手人が捕まり、自白もある。その状況で、「なぜ?」を追うことを上役から求められる。私がやりました、どうぞお裁きください、とだけいう犯人の動機、心の叫びを引き出すのが彼の仕事である。いわゆるホワイダニット。

そこから垣間見える、ひとりひとりの人間のドラマ。人の心の複雑さ。いくつかの事件を経て、主人公の心が変化していく成長物語でさえある。しぶいなあ。湿っぽくもならず、情緒にも流されず、でも、きっちりと人間を描く。なかなかすごい物語である。この人の作品、もう少し読んでみたいなあ。