卵をめぐる祖父の戦争

卵をめぐる祖父の戦争

96 デイヴィッド・ベニオフ 早川書房

これも「モトムラタツヒコの読書の絵日記」で知った本。たくさん教えてもらってるなあ。

フロリダで隠遁生活を送る祖父はロシアからの移民だ。第二次世界大戦中、レニングラードに住んでいた彼が経験したこと・・ドイツ人を二人殺し、卵を一ダース手に入れたことを描いた物語。

いやあ、しんどかった。「キングダム」みたいだった。とにかく残酷なシーン、恐ろしいシーンが続き、人が死ぬ、死ぬ、傷つく、ボロボロにされる。こういう物語は私は基本的に読むのが無理なのだけれど、その合間合間に潜むユーモア、そして牽引力にやられて読みやめることもできず、時間をかけて読むしかなかった。つらかった、でも、引っ張られた。

第二次世界大戦中のソ連、というと終戦直前に参戦して日本兵をシベリアに抑留したイメージが強い。戦勝国だという先入観もある。けれど、ロシア本土ではナチスドイツとの壮絶な戦いがあり、多くの人が犠牲になった。それは「同志少女よ、敵を撃て」でも読んだ。戦争は、勝とうが負けようが悲惨であり、凄絶である。それを忘れてはならない。

レニングラードはドイツ軍に900日間包囲される。市民生活は逼迫し食糧難は悲惨を究めた。そんな中、17歳のレフ(のちの祖父)は落下してきたドイツ兵の所持品を略奪し、警察に見つかってしまう。本来なら即時銃殺刑になるはずなのだが、秘密警察の大佐に、とある任務を命じられる。大佐の娘の結婚式のために卵を一ダース調達してきたら許してやるというのだ。干からびた玉ねぎですら大勢で分け合って食べるしかない状況、それどころかひそかに人肉を食べている人もいるレニングラードに卵などはない。レフともう一人、任務を命じられたコーリャは、この奇妙な任務を果たすためにレニングラードを離れ、歩き出す・・・。

この物語にも少女狙撃兵や、ドイツ軍にレイプされる少女たちが登場する。戦争は男だけのものではない。その背後には必ず踏みにじられる女たちがいる。少女たちへのあまりに残酷な仕打ちの描写に、しばらく本を閉じて深呼吸しなければならない場面すらあった。だが、そんなことをしたのは、きっとドイツだけではない。ソ連も、アメリカも、日本も、どんな国も、敵国の女性や、もしかしたら自国の女性をこうやって虐待し、そして自分たちも殺し合い、傷つけあってきたのだ。

いまウクライナで起きていることも、あるいはミャンマーやシリアやアフガニスタンやソマリアで起きていることも、みんな同じだ。戦争はいつも愚かしいのに、始めてしまうし、終わらせるのは難しい。それがどれほど酷いことなのか、わかっているはずなのに。私には、この物語がフィクションというよりは、現在進行形のひどくリアルなもののように感じられてならなかった。人は、どんな時でも人であろうとするから、笑ったり、楽しもうとしたりもする。そして、簡単に傷つけられる。そんなことをまざまざと見た。

とてもつらい物語なので、読むのをお勧めしていいかどうか。それでも、根底にある明るさやユーモアは私を励ましてくれた、ということもお伝えしたい。