古代中国の24時間 秦漢時代の衣食住から性愛まで

古代中国の24時間 秦漢時代の衣食住から性愛まで

37 柿崎洋平 中公新書

世界史の次は中国史である。この本は、読者が古代中国(特に秦漢時代)にタイムスリップして一日を生き抜くという設定でロールプレイングゲームのように古代中国の日常風景を描き出し、解説している。

歴史というと、政治がどうしたとか、権力者がどう入れ替わったかとか、どんな争いがあったかということが中心になる。だが、どんな時代にもものすごくたくさんの人が生きていて、その大多数は権力に関わりのない庶民であり、当たり前の日常を送っていたはずである。私はむしろそっちのほうが知りたい、興味がある。今現在も、大河ドラマで平家の滅亡と鎌倉幕府の成立をやっているが、あの武士たちはいったいどうやってご飯を食べていたのか、食料や武器を手に入れるのにどんな方法を持っていたのか、風呂には入ったのか、けがや病気をしたらどうしていたのか、夜はどんな布団で寝ていたのか…みたいなことがいつも知りたくなる。何とかの戦いでだれが功将があったかなんてことは、二の次三の次でいいような気がいつもしてしまう。

この本は、そういうことを前面に押し立てて、朝、目が覚めてから起き上がり、身支度を整え、朝ごはんを食べ、さあ、出勤するぞ、と時系列を追って丁寧に日常を教えてくれる。古代中国人は歯磨きの習慣がなかったのでみんな虫歯や口臭に悩まされたことや、ひげが薄いと馬鹿にされて、それをからかわれて部下を殺した権力者もいること。トイレは和式も様式もあったが、どちらにせよすごく臭かったこと、豚小屋に隣接していたこと。役所に勤めるにはやはりイケメンが有利だったこと、身分が高いものがやっぱり強くて、昔は貧乏だった英雄話などは後付けの伝説に過ぎない場合がほとんどであること、などなど。夜になり、就寝するまでの一日は、実に興味深かった。

こうした日常史こそが歴史の根幹をなすものではないかと私は思う。政治史、権力史、経済史などはその上に、成立するものであって、まず、人間がどんな風に生きていたのか、を知ることが時代を理解することにつながるし、また、今も昔も変わらない人間理解があってこそ、歴史もわかるというものだと思う。面白い本だった。