土を喰ふ日々  わが精進十二ヶ月

土を喰ふ日々  わが精進十二ヶ月

151 水上勉 文化出版局

ジュリーファンである。そもそもが「サワキ」という名は、本名とは何の関係もなく、ジュリーから連想したものである。沢田研二の「サワ」にジュリーを漢字表記して「樹里」の上一文字を取り「キ」としてくっつけた、ただただ、ジュリーにちなんだ名前である。

水上勉の書いた「土を喰ふ日々」はジュリーの主演映画「土を喰らう十二ヶ月」の原作である。もちろん、映画を見てきた。長野の山奥に住む、ジュリーが演じる、妻を亡くした作家ツトムのもとに、松たか子演じる美人編集者、真知子が通う。旬の山菜、野菜などを駆使してツトムは精進料理をこさえ、真知子はそれをバクバクとほおばる。干し柿、ゴマ豆腐、山椒の漬物、茄子の味噌和え、筍の煮物、梅干し・・・。季節の移ろいとおいしそうな食べ物、そしてツトムの心の内が淡々と描かれる静かな映画である。

私が見たいと言ったら、付き合いで夫が一緒に映画館に行ってくれた。帰宅したら、原作のこの本をさっそく図書館で借りていた。おお、気に入ったんじゃないか、とうれしい私。まあ、面白かったよ、というので私も原作を読んだのである。

原作にはきれいな編集者などは登場しない。ただただ、旬の収穫物と向き合い、料理し、梅を漬け、焚火をしてはそこに馬鈴薯を突っ込む。雑誌「ミセス」に連載したものだというから、おそらくその編集者には美人もいただろうが、本からは計り知れない。子どものころに口減らしのため禅寺に修行出された水上勉の精進料理の修行の記憶や、それを教えてくれた和尚様、周囲の人々の思い出、そうして作られた料理を楽しむ人々が描かれているだけである。 

だが、それらのおいしそうなことと言ったら。上等の肉や新鮮なとれたての魚介など一つもない。ただただ、畑や山林で採れた素朴な土の産物たちが丁寧に料理されていくさまが描かれるばかりである。それが、この歳になった私には、もう素晴らしく御馳走に感じられてならない。

そういえば、沖縄の離島を旅した時、一番おいしかったのは石垣牛でもなければとれたてのマグロでもなく、そこらの海辺でできたモズクであった。モズクばかり何杯もお代わりをした。三陸を旅した時も、豪華な海鮮やステーキではなく、素朴なワカメのしゃぶしゃぶが一番おいしかった。真っ黒な色をした、採ったばかりのワカメを沸騰した湯に浸すと、見る見るうちに鮮やかな緑色に変化する。それをポン酢につけて食べると、シャキシャキとした歯ごたえとみずみずしい味わいがたまらなくおいしく、ワカメばかりをむさぼり食べた。おいしいものとはこういうことだ、と思ったものである。それを思い出した。

土に根差したものを食べる。旬の、そこで採れたものを丁寧に食べる。それを描いた本であり、映画である。映画の方の料理は土井善晴氏が監修したという。料理の手さばきも、丁寧な向き合い方も、素晴らしいものであった。