在宅ひとり死のススメ

在宅ひとり死のススメ

2021年6月8日

39 上野千鶴子 文芸春秋

また上野先生の本を読んだ。この人は歯切れがいいなあ。

高校時代の同級生がこの本を読んで、一人暮らしの老母に勧めたいけれど、さすがに「ひとり死」はないよなあ、と思いながら実家に顔を出したら、「この本、良かったのよ。私もこんなふうに死にたいわあ。」とまさしくこの本を差し出して笑顔で言われたそうだ。うんうん、そうだよなあ。

お一人様で何が悪い、孤独死なんて怖くない、施設なんていらない、認知症になってもひとりで頑張れる、というような内容である。中身は非常に具体的で、「いくらかかるか」も率直に書いてある。実際、ひとり死はそれほど高くつかないようだ。そうだったのか・・・。

大阪の耳鼻科医、辻川覚志さんの調査によると「独居高齢者の生活満足度のほうが同居高齢者より高い」というデータが得られているという。興味深いのは、同居者がひとり増える二人世帯の生活満足度は最低で、同居人数がもうひとり増えて三人世帯になると生活満足度はやや上昇し、更に四人以上になると、生活満足度は独居高齢者とほぼ並ぶ水準になるという。しかも、二人世帯の生活満足度を更に深堀りすると、夫婦では妻の側の満足度がずっと低い。つまり「二人暮らしは妻の一人負け」。さらに「悩み度」を調べてみると、圧倒的に一人暮らしが悩み度が低く、二人暮らしが最も悩み度が高い。同居人数が増えると生活満足度は上がるが、悩み度も上がっていく、ということがわかったという。つまり、満足度の高い老後の生活は、独居にあり、という結論に達したというのだ。なるほど。

認知症になったらどうする?という問題も追求している。上野先生の講演会には「私は80代だが、町内会長などで世のため人のために頑張っている。すべからく老人は生きがいを持って社会貢献をすべし」などと発言する出席者がいるという。100%男性なのだそうだ。上野先生、そういう人には、ゆっくり、はっきり、こう言うんだそうだ。「人間、役に立たなきゃ、生きてちゃいかんか。」と。

認知症になったら安楽死したほうがいい、という人も多い。人に迷惑を掛けるくらいならさっさと死にたい、などという。だけど、人に迷惑をかけちゃいかんのか、とも思う。人間なんて、すべからく何らかの迷惑を掛け合いながら助け合いながら生きていくもんじゃないのかい?と思う。人間の尊厳を失うくらいなら死にたい、というけれど、人間の尊厳って、何?と思う。役に立たない人間は死んだほうがいいのか?そういう考えこそが、私は恐ろしい。誰かのためにならない存在は、いちゃいけないのか?それを誰が決める?誰の役にも立たなくなったら殺されても文句も言えないような世界なのか、ここは?

というわけで、私は安楽死には疑問がある。無駄な延命治療には反対で、痛いのや苦しいのはどんどんとって欲しいし、無理に生かしておくよりは自然にしてほしいけれど、だからといってもうダメだとなったらすぐに死なせるというのはゴメンだ。役に立たない老人だって、生きていていい、最後まで自分の人生を全うしていい。

私には、八十歳を過ぎて生まれてはじめて一人暮らしデビューしてしまった母がいる。自己決定をほぼせずにここまで生きてきた人なので、独居には非常なる困難がつきまとう、寂しい、悲しい、困っている。だとしても、彼女は施設には行きたくない。最後まで一人で暮らしたい。私は、それを支えるしかない、支えようと考えている。同居はせず、施設にも入れず、出来るところまでやってみようと思う。

そんな決意を固める本であった。ひとり死を怖がらないことにしよう、私も。

カテゴリー

サワキ

読書と旅とお笑いが好き。読んだ本の感想や紹介を中心に、日々の出来事なども、時々書いていきます。

関連記事