大好きな町に用がある

大好きな町に用がある

49 角田光代 角川文庫

角田光代の旅のエッセイ集。長時間電車に乗るときに、こういう本は本当に役に立つ。自分がこれから出かけることへの臨場感が読書の楽しみをより高めてくれる。

角田さんは若いころからいろいろな場所に一人で出かけている。で、いつも道に迷ったり、行きたい場所が見つからなかったり、間違ったり失敗したりしながら、現地の人に助けられ、苦労して歩き回っている。そんなエピソードばかりだけれど、それでも旅をやめないところを見ると、それを楽しんでいるのだろう。

この本もそんなエピソードがたくさん載っている。単なる旅だけでなく、山登りに軽装で行って大後悔するのに、また同じ失敗を繰り返してもいる。彼女が失敗した奥鬼怒沼への山行、実は我々もやっている。軽い気持ちで出かけたら結構な難所だらけでへとへとになって、しかも帰りのバスに間に合わせるために、ろくに休憩もとらずにとって引返した覚えがある。同じことをやっているのには笑った。

知ってる場所の話が多くて、個人的にも楽しめた。彼女が毎年花見をよくする、水の湧き出る公園で、毎週ウォーキングしていたものだし、彼女が通っていたボクシングジムのそばのお餅屋さんがおいしいことも知っている。懐かしい場所だなー。

何もないタイの島の話。何もないところへ、何をしに行くのか、何をしているんですかと尋ねたら「え?何って、旅を・・・」と答えられた話。そうなんだよなあ。何もないところへ行くのが旅、でもある。でも、その島を再訪したら、電気も水道も通じていて、海も汚れていた、という。それでも、やっぱりそこは何もないを味わう場所であり続けるのだ、とも。

いつになったら海外にのびのびと出ていけるのだろう。台湾に行きたい、ベニスに行きたい、バルセロナに行きたい。そんな日が本当に来るのだろうか、とちょっと気が遠くなる。