小田嶋隆が死んだ

小田嶋隆が死んだ

2022年6月29日

五日間ほど旅に出ていた。その間、新聞もテレビもほとんど見ないで、スマホでは天気予報ばかり見ていた。帰宅してたまった新聞を読んだら、小田嶋隆の訃報が載っていた。愕然とした。

少し前、ちょっと入院したことは知っていた。でも、退院したって聞いていたし、そもそも検査入院と言っていたような。まさか、そんなことになろうとは。

小田嶋隆の著作で一番覚えているのは「上を向いてアルコール」である。ほぼ完治が難しいと言われているアルコール依存症から脱して二十年以上完全断酒に成功した経験談である。アルコール依存症がどんなに困難な病気か知っているからこそ、そんな本が書けたことに感嘆した。自分を突き放して完全に俯瞰して客観化できる人だったのだと思う。あれは名著であると思った。

自分のブログの小田島隆関連記事を読み返して思い出したのが、反知性主義に関する彼の記述である。すっかり老人力がついてしまったため、情けなくも忘れていた。反知性主義をめぐる議論は、知性云々を軸にした対立であるよりは、「分断」のストーリーだという彼の指摘は非常に鋭い、と私は思ったものだった。

思うに、われ われは、知性みたいな些細なことで対立することはやめて、なるべく早い時期に、きちんとした再分配のある、まともな社会を取り戻して、この分断の進行を阻 止しなければならない。
(「日本の反知性主義」内「今日本で進行している階級的分断について」小田嶋隆より)

全くだよなあ、とつくづく思う。もうすぐ選挙だけれど、どうにか、どうか、まっとうな社会を取り戻せますように、とほとんど絶望に近い気持ちで私は祈るのである。

小田嶋隆は赤江珠緒の「たまむすび」というラジオ番組に出演していた。訃報を受けて、小田嶋と交流のあった武田砂鉄と赤江は、番組内で思い出話を語り合った。そして、最後に小田嶋本人からのメッセージが読み上げられた。まだメッセージできる力があるうちに、と亡くなる十日ほど前に書かれたものだという。「オンエアや打ち合わせのみならず打ち上げ、飲み会、バーベキュー、運動会、遠足などなどいろいろな場面で楽しいことばかりが思いだされ、まるで小学校を卒業するような気分です。本当にありがとうございました」赤江珠緒の声は震えていた。彼は、覚悟していたのだ、自分の死を。それを「小学校を卒業するような気分」と言ったのだ。

人生は短すぎる。まだ彼は65歳だった。これからじゃないか。ついこの間、高校を卒業したばかりじゃないか。笑い事じゃなくそう思う。自分を振り返って、どうしてもそう思ってしまうから。

小田嶋隆が遺した言葉の中で、胸に残ったものを最後に書く。

知性は大切なものだ。
そして、学問はありがたいものだ。
私たちはそれらを自分たちの手に取り戻さなければならない。

小田嶋隆さんのご冥福をお祈りいたします。

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サワキ

読書と旅とお笑いが好き。読んだ本の感想や紹介を中心に、日々の出来事なども、時々書いていきます。

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