少年と犬

少年と犬

2021年7月21日

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馳星周の直木賞受賞作品。今までの馳星周ファンが「馳星周、どうした?」と言ったというけれど、私も読んで思った。「馳星周、どうした?」と。

暗黒街のマフィアものやバイオレンスな小説を書く人じゃなかったっけ。とは言え、それ以前に坂東齢人という名で少女漫画評なんかも書いていたから、実はソフトな部分もあるのは知ってはいたが。それにしてもなんというハートウォーミングな。まあ、犯罪者も登場はするけどな。そこに、わずかに馳星周臭が残っているというか。

一匹の犬が、何人もの飼い主、というかパートナーとの関わりを経て最終的な目的地にたどり着く話。実に賢い犬だ。そして、人はみな、彼(犬)に救われる。

馳星周自体が、マージという犬のために別荘まで建てたという噂を聞いたから、それくらい犬が好きなんだろうとは思う。でもなあ。これ読んで、感動して涙流すのはなんだかなあと思う。南を目指し、西を目指す。途中でどこに行き着くのか見えてしまうし、きっとそうなるだろうなあ、と思った通りに進んでしまう。

上手だし、読ませるけれど。でも、これは予定調和のお話であって、これが直木賞取っていいのか?遠い昔、景山民夫が「遠い海から来たCOO」で直木賞をとった時に同じような感想を持ったことを思い出す。いや、おもしろかったし、すきな作家ではあるけれど、でも、いいのか?そんなんで、いいのか?と。中島らもがついに取り得なかった賞、それによっておそらく命を縮めたであろう賞。なんだかなあ。

馳星周、これからどうするんだよ。どんな小説を書くのか。このまま、いい人で行くのかい?