平成中村座「法界坊」

「勘三郎」をキーワードにしておいたら録画されていた「法界坊」平成中村座NY公演を数日間かけて観た。これはとんでもない舞台だと思った。

残虐非道な悪人の物語なのに、喜劇でもあり、恋愛劇でもある。それを串田和美と勘三郎がNY向けに思い切りいじっている。歌舞伎だけじゃなくて、演劇の色んな要素がてんこ盛りで、どうやって観たらいいのか戸惑ってしまうほどだ。

大成功という触れ込みではあるが、そうなのか?と思う部分もある。山盛りに盛り上げ過ぎて消化不良を起こしそうなところもある。だけど、ものすごいねえ。勘三郎は怪物だということだけは、よくわかってしまう。

勘三郎のセリフは、独白は英語がかなり使われている。発音は明らかに日本人の英語だが、イントネーションがいいし、気持ちがこもっているので、よく伝わる。いきいきして、楽しい英語だ。

勘三郎の踊りや身のこなしは驚くほど軽快で、バレエのような振り付けもある。それがまた、素晴らしく似合っている。体重がないんじゃないかと思わせるような身のこなしだ。幕間にちょっとだけかっぽれを踊るシーンがあるのだが、たった一人で、花道の端っこで、ちょっとだけ踊ってみせるだけなのに、会場中を取り込んでしまうのがわかる。ほんのちょっと踊っただけで、人の心を掴んじゃう。

実はこの芝居、エロもグロもある。笹野高史はエロもグロも演じきっている。かなり際どいシーンも思い切り笑わせるし、グロはすごいよ。暗闇の中で、頭を顔の部分前面だけぺろんと切られてしまう。真っ赤な切断面のお面をつけて、顎から切られた顔を、ぶらぶらぶら下げたままでなんと踊ってみせるのだ。それどころか、最後には、ラッパまで吹いちゃう。そこまでやるのか!!!!一歩間違ったら凄惨でグロテスクなその場面なのに、会場を笑いで埋め尽くす。

掛け軸をこっそり盗もうとする法界坊と、勘太郎演じる若松と、七之助演じるおくみのやりとりは、ちょっと残念だ。法界坊が掛け軸を手に入れようとした瞬間に、ふっと若松が掛け軸の位置を移動させたり、法界坊のたてる物音に、バレたか!と思った瞬間、若松とおくみが他所に気をとられる。掛け軸をめぐるやり取りは、もっと芸達者がやれば笑いが何倍にも膨れただろうに、勘太郎と七之助だと、掛け軸場所を移動させる、空を見上げる所作そのままなので、今ひとつ笑えない。ほんのちょっとの間の違いなのだけれど、勘三郎のうまさだけが際立って、空回りするのを感じる。もったいない。

長い長い舞台を、勘三郎は踊り、しゃべり、客席と掛け合い、見栄を切り、走り、演じ続けた。パワフルで、エネルギッシュだった。この人が、亡くなるなんて、夢にも思えないほど、力に満ちていた。

見終わって、なんだか力が抜けた。ものすごく大きなものを失ったということを、また確認してしまったのだなあ。

2013/1/28