怪物がめざめる夜

怪物がめざめる夜

2021年7月24日

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「怪物がめざめる夜」小林信彦 新潮文庫

 

伊集院光が「僕が大好きな小説」と言っていたので、読んでみた。なんだか前にも一度読んだことがあるような気がする。
 
放送作家や新聞記者、ラジオ局スタッフなど四人が共同で、ラジオDJにして風刺の効いたコラムも書く「ミスターJ」というキャラクターを作り上げる。、その実像を演じる役を与えられた芸人が、いつしかキャラクターを乗っ取り、ミスターJそのものとなり、カリスマ性を帯びていく。リスナーを扇動し、ブレーンだったはずの四人を攻撃させる。そして、恐ろしい結末が待っている・・・・。
 
これが書かれたのは1993年だというから驚いてしまう。当時はまだパソコン通信くらいしかなかった。ミスターJはパソコン通信の掲示板を使ってファンに攻撃対象の電話番号を知らせる。そこから大量のファクス、嫌がらせ電話、注文した覚えのない大量の出前などの攻撃が始まる。まだ一般的でなかったストーカーという言葉がすでにこの本には登場している。
 
鬱屈した精神を持つ扇情的な人間が、一定の脚光を浴びる舞台を与えられたところから大衆を煽り、いつしか大きな力を持つようになる・・・・って、これ、私、知ってるわ、と思う。あの人だ。この小説は、彼の登場を予言していたのか?とちょっと思ってしまう。
 
小林信彦は見巧者だ、と言われる。まだ誰も発見していない芸人を見つけるのがうまい。それと同じように、先を見る目があるのだろう。この本に描かれていることは、不確かな情報が溢れ、それに扇動されて不条理な攻撃が個人に向かう今の社会を確かに予言している。

2014/9/25