我が家はやっぱりおかしい

サワキ家 夕食にて

「あしたは、コンクールのオーディションがあるから、遅くなると思う」
「オーディションって、二年生を中心に選ぶの?」
「いや、完全実力主義でいくんで、覆面審査なんだ。」
「ふくめんってなに?」
「みんな、くろーい袋をかぶって吹くんじゃない?」
「そうそう、忍者みたいな・・じゃない、審査員が後ろを向くんだよっ!」
「審査員ってだれ?」
「OBがやるから、本当は前を見ても、学年はわからないと思うんだけどね。」
「OBってなに?」
「オカダ・ブンゾウさんじゃない?」
「ちがう、オカダ・バンザンさんだよ。」
「・・そういえば、熊沢蕃山ってだれだっけ。」
「江戸時代の歴史学者じゃない?」
「中江藤樹の弟子だ、陽明学者だ。」
「陽明学者って?」
「太陽の明るさを測る学者だよ。」
「おいおい」
「で、中江藤樹は、その師匠で、月の明るさも測ったと。」
「そこまでいくかね。」
「何で中江藤樹の話になったの?」
「オカダ・バントウのせいじゃない?」
「番頭が、審査員をやるのね」
「ちがうんだけどね。」
「何でこういう会話になるんだよ。誰か戻せよ。」
「昔は、おにいが怒って『本当のことを話せよっ』って力づくで戻したんだけどね。」
「最近はさらにディープに持っていくようになった。」
「いつ、変わったのかなあ。」
「真実を知りたいって思ってたんだよ。でも、もういいやって。」
「うちでは、真実が語られることはない、と。」
「あたしは、本当じゃないだろうなあ、でもいいや、大きくなれば、どうせわかるし、面白ければいいやって聞いてるの。」
「つまり、一番ものを知らない奴の態度に左右されるんだな」
「それはまずいなあ。」
「よその家では、もっとまっとうな会話してるんだろうね。」
「きょうはこんなことがあったよって?」
「そんな家庭に住んでみたいね。」
「いや、食事中に会話なんてしてないんじゃない?」
「じゃ、なにしてるんだよ。」
「テレビ見てるんだよ。」
「テレビ見て、飯食えるってすごいな。」
「だよね。手も口も止まっちゃうもん。」
「テレビ見てるとき、話しかけると怒るもんな。」
「それだけになっちゃうんだよな。」
「みんなそうでしょう。」
「うちだけだよ。」
「なぜか、テレビがついていると、ものすごく集中して見るんだよね」
「で、他の事ができない。」
「思うんだけど、テレビが珍しいんじゃない?」
「毎日見てるのに?おかしいよ。」
「我が家は、やっぱり、おかしい。」
「結論は、それかいっ!」

2007/8/1