推し、燃ゆ

推し、燃ゆ

115 宇佐見りん 河出書房新社

芥川賞受賞作。この人は「かか」を読んだことがある。「かか」は、私の読解力不足がいけないのだろうけど、非常に読みにくい作品だった。この本は、読みやすかったし、わかりやすかった。

親と子、あるいは兄弟などの家族間の人間関係がこの人のテーマなのだろう。できのいい姉と、何らかの診断名が出されている発達障害の高校生の主人公、支配的な祖母と母。学校は休みがち、授業は寝てばかり。でもアルバイトはうまくいかないながらも続け、得た収入はすべて「推し」活に注ぎ込む。グッズを買い、CDを買い、人気投票をし、SNSで発信し、推しのすべてを記録し、分析する。それが彼女の生きるすべてだ。ある日、推しが一般女性を殴り、それがもとでSNS炎上してしまう。それが、彼女の生活にも影響を及ぼしていく。

発達障害の生きづらさ、それを超えて生きていくための支えとなる推し。推しを応援することが生きる力となること。日々の生活と、推しのいる世界との間のギャップ。そういうものが、リアルな感覚として描かれている。ひりひりするような気持になる。

でも。じゃあ。どうやって。と、思う。発達障害があって、やらねばならないけれど、できないことがあって、わからないことがあって、でも、生きていかねばならない、自立せねばならない現実がある。親も、兄弟も、それぞれに苦悩もある、情もある。やるせない気持ちばかりがじわじわ伝わって、息苦しい。「推し」自身もまた、そんな現実を生きているんだろう、と思わせるようなところもある。そんな心理をリアルに描き出した、ということ。

ここから、どこへ行くのだろう、どうやって行くのだろう。それは、この小説の次。読者が考えればいいことなのだろうか。他人事ではないような気持になってしまった私である。