放っておいても明日は来る

放っておいても明日は来る

2021年7月24日

「放っておいても明日は来る 就職しないで生きる9つの方法」  高野秀行 本の雑誌社

学生時代、コンゴまで謎の幻獣ムベンベを探しに行って以来、ずっと私が贔屓にしている高野さんの新作です。(あ、探しに行ったのは、高野さんね。私じゃなくて。)

上智大学で、東南アジア文化論の講義を行うはずだったのが、そんな難しい話は出来ない・・・と悩んで、タイやミャンマーやマレーシアなどで実際に暮らしたことのある人を毎回ゲストに呼んで、対談形式で授業を進めた、その記録。

東南アジアの話をするつもりが、なぜそこで生活することになったのか、そこら辺の経緯を話しているうちに「どうやって外国で人生を切り開いたか」「仕事をどうやって見つけたか」の話になってしまって、しかも、それが抱腹絶倒で、講義は大好評。他学部や他大学の学生まで、噂を聞いてもぐりこんできたと言う。

ゲストのぶっ飛んだ話に刺激を受けるのかと思ったら、反対に「癒されます」と学生が言ったのに、高野さんの方が驚いたそうだ。

ゲストたちはまるで口裏を合わせたように、「明日のことなんか考えない」とか「てきとうにやっててもなんとかなる」と堂々と言い放つ。実際にゲストの人達は決して有名人ではないし社会的に特別成功しているわけでもないが、好きなことをとことんやっていて、元気に生きている。
「ああ、人生はなんとでもなるんだなって思うと気が軽くなって、就活にも余裕が出てくるんです」と彼らは言うのである。

ゲストは八人。対談記録の後に、高野さんが、ちょっとコメントを付けているのだけれど、これがまた、いいのだ。

たとえば、マレーシアでジャングル生産物の研究開発会社を営んでいる二村さんの話の後に

独創的な人と言うのは必ずしも一直線の人生を送っているわけではない。(中略)気がくるくる変わるわけではない。二村さんは常に「面白いこと」を探しているのだ。道をいくつも模索し、できることは進め、できないことは諦めたり、後回しにしたりする。本人の中では矛盾がない。そして大事なことは、進むべき道を何通りも持っていると、そのうちの一つがダメになってもぜんぜん挫折しないということだ。

タイでプロのムエタイ選手になった下関さんの後には

日本人が最近「勝ち組」「負け組」と繰り返すのは格差社会のせいではなく、勝ち負けに異様にこだわる気質のせいではないか。他人と比べてどうかが常に問題なわけだ。実際、タイは日本と比較にならない格差社会だがそんな分け方はしない。自分が楽しければそれでいいのだから、人がどうでも関係ないのだ。
日本人がそれを真似すべきとは思わないが、そういう価値観もあると思えば、今多少負けていてもあまり気にならなくなるかもしれない。

(引用はすべて「放っておいても明日は来る」高野秀行 より)

誰もが、高野氏やゲストのような人生を送れるわけでもないし、そんな必要もさらさらないけれど、「こうあらねばならない」というがんじがらめの枠を一度とっぱらって、本当にやりたい自分の生き方を正直に見つめてみると言う行為は、誰もが一度はやってみて損はないと思う。

ひとつの道しか考えず、そこからはみ出したら「もうダメだあ!」と自分を卑しめたり、嫌悪したり、世間や周りの人から褒められそうなことばかりやろうとするよりは、多少カッコ悪くても、本当に自分のやりたい人生を見つけて、楽しく元気に生きて行った方がずっと幸せだよなあ、としみじみ思う。

2009/12/13