敗者復活

敗者復活

2021年7月24日

「敗者復活」 サンドウィッチマン

引越しのさなか、じわじわと読み進めていた本。
これ以上蔵書を増やすと、生活に支障が出そうな勢いなので、基本、図書館で本は借りることにしているのですが、これは、買いました。というのも、S区の図書館にリクエストをかけたところ、審議の結果、購入が見送られたからです。

なぜ、この本が却下されたのか。私は疑問でなりません。
確かに、表紙を見ると、肩幅の広い、目つきの悪い、いかつい伊達ちゃんと、いきってる富澤くんがヤ○ザさながらに写っているし、著者名は「サンドウィッチマン」なんてふざけてるし、見るからに怪しげだとは思いますが、読んだら、すごくちゃんとした本です。二人の男の、信頼と友情と仕事への思いのこもった、深く熱い本です。

ひょんなことから、M-1グランプリにたまたま出会って、今まで全ての大会を見て、私はすっかりお笑いの世界に浸ってしまうようになったのだけれど、その魔物のような力を、この本から、改めて感じます。人を笑わせるという仕事のもつ凄みのようなものを、ひしひしと感じるのです。

人はパンのみに生きるにあらず。極限状態で、本当につらく苦しいとき、なけなしの食料を差し出してでも、人は笑いを求めることがあると聞いたことがあります。戦時中の芸人の慰問や、捕虜収容所での演劇が、どんなに人を勇気付けたか、そんなエピソードも読んだ事があります。

お笑いなんて、無くてもいい商売、くだらない、人を馬鹿にするような、どうしようもないものだと思われる方もいるかもしれません。でも、真っ暗闇の中、たった一人ぼっちでいるような心持ちのとき、ふっと笑うことが、どんなに心を明るくしてくれることか!ただ、人を笑顔にすることだけに全力を傾け、命を懸ける商売だって、実はとても尊いものじゃないかと、私は思うのです。

あの年のM-1グランプリ。有名事務所所属の、名の売れたコンビ、グループがひしめく中、弱小事務所の、ほとんど誰も知らない芸人コンビが、敗者復活戦を勝ち上がり、大物をなぎ倒して、あれよあれよと優勝した、あの快挙は、歴史に残るできごとです。どうせ大手事務所の出来レースじゃないかと本人たちも半信半疑でいたのに、それでも、決勝に残れさえすれば、きっと優勝できる力はあると自分たちを信じて、それを現実のものにしてしまった、あの日。見ていて、鳥肌が立ちました。本当に、彼らは、お腹を抱えて、涙を流すほど、面白かったのです。それは、ものすごい力でした。

読み終えて、また、2007年のMー1グランプリを見直したくなりました。もう、何度も見たのに。繰り返し見ても、笑ってしまいます。

誰からも愛される、明るい伊達ちゃん。ちょっと面倒くさい性格の、ひねくれた富澤くん。
伊達がせいじで、富澤がジュニアだな、なんて言ってたら、何でわざわざ千原兄弟にたとえるんだよ、と夫からクレームが。いや、でも、コンビって、そういう組み合わせが多いんです。だからこそ、うまくいくんだろうなあ。

2009/4/20