星の子

星の子

2021年7月24日

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「星の子」今村夏子 毎日新聞出版

 

宗教にどっぷりと浸かってしまった家族の物語だ。善人ばかり出てくるのにね。そして、子どもはちゃんと親をみて、わかってもいるのに、それでもそこから動けなかったり、変えようと思っても、変えられるのは自分だけでしかなかったり。日々の小さな出来ごとを丁寧に積み重ねて、子どもの成長を描いている物語だと思う。
 
宗教って何なんだろうね、と思う。こんなに世界中の人達が当たり前のように必要としていて、人生に組み込まれていて、でも、非常に矛盾していたり、言ってることとやってることが全然違っていたり、人を幸せにするはずのものなのに、とんでもなく不幸にしたり、殺し合いまで起こしてしまったり。かと思うと、心打たれて言葉も失うほどに、美しく清らかに、誰かのために身を投げだしたり奉仕したり助けたりする宗教家もいて。人ってなんて矛盾した存在なんだろう。
 
なにかを信じている人がいて、その人は善意のもとに生きていて、たぶん真摯で誠実で真っ直ぐで正直で一生懸命なんだとして。でも、その矛盾や過ちや毒になる部分も、一番そばで見ている子どもには、全部わかってしまったりもして。そこからいつか離れていく、という予感を持ちながら、いまはとにかく、この子ども時代をすごしている。という物語なものだから、もう、全然他人事じゃないな、と私は思った。個人的に感じるところの多い物語ではあった。

2019/9/9