極夜行

極夜行

2021年7月24日

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「極夜行」角幡唯介 文藝春秋

なんだかんだ言って、角幡唯介の本は全部読んでいる、と思う(未確認だが)。早稲田大学探検部出身、元新聞記者の、器用なんだか不器用なんだか、賢いんだか馬鹿なんだか、カッコいいんだか、ダサいんだかよくわからないこの男の文章は面白かったりつまらなかったりするが、つい読まずにはいられない。

今回の探検は、いわゆる「極夜」(北極圏において、長い期間、朝から晩まで太陽が全く昇らない時期)にGPSなどのメカに頼らず単独で(犬は連れて)橇を引き、北極圏内を探検して回るというものである。少し前に、NHKのドキュメンタリー番組で探検の概要は放送されたが、それは本当のごく一部のサワリの部分だけであったことがこの本を読むとよく分かる。

角幡は、探検せずにはいられない衝動を、死に近づくことによって生を確認する作業だと今までの著作の中で繰り返し語っている。電子機器に頼る探検は探検ではない、安全が確保されなければされないほど、その探検は純度を増す、と。

だが、この探検に出る前に彼は結婚し、子供を得た。それが、彼の方向性を変えさせる。GPSには頼らないが(六分儀だけで位置を確認する‥・予定が、初日に六分儀を紛失するという失態!)衛星電話で妻と子と話すことはアリにしちゃうのである。そこらへんの弱さが、私にはチャーミングに見えるが、彼に探検家の厳しさを求めていた人間には失望ともたらすのかもしれない。だとしても、彼はそう決め、それを実行し、書く。その自己矛盾を受け入れる潔さが、私は好きだ。

彼は、極夜を旅することで人間の原始的な感覚を得ることを求め、それは確かに完遂される。その経過は非常にリアルで分かりやすく、感動的でさえある。ネタバレになるので、ぜひそのあたりは読んでいただきたい。

お産だけでもう冒険はたくさんだ、と以前に私は書いたが、まさしくそんな展開であったなあ、と笑ってしまう。彼の探検家としての頂点を極めたような極夜行であった。

それから、彼は探検家であると同時に文筆家である。それがよく分かる本でもあった。

2018/6/18