歌舞伎 家と血と藝

歌舞伎 家と血と藝

2021年7月24日

87

「歌舞伎 家と血と藝」中川右介 講談社現代新書

 

面白いんだけど、大変だった本。旧約聖書の最初みたいなんだもん。誰が誰の息子で、誰と結婚して生まれた子どもが誰で・・・みたいな家系説明ばかりで。しかも、歌舞伎役者ってやたらと養子が多くて、外に産ませた子を本家で育てたとかも多くて、ややこしくて。
 
そう、この本は現代の歌舞伎役者のルーツをまとめたもの。市川宗家、尾上菊五郎、中村歌右衛門、片岡仁左衛門、松本幸四郎、守田勘弥・・・。何しろ、襲名するとどんどん名前が変わっていくし、同じ名前で時代が変わると別人だし、わかりにくいったらありゃしない。それでも分かるように、最大限の努力はなされていて、だからこそ、読み通すことができたのだけれど。
 
血筋がすべてのように思える歌舞伎界だけれど、実は案外、外からどんどん養子を貰い受けているのね。顔立ちの美しさだけでもらわれてきた子なんかも結構いるわけで。その子孫が今の誰々、と言われると、おお、確かに美しいもんなあ、と納得してしまう。
 
歌舞伎役者は血筋だけじゃない、もちろん藝が大事。とともに、実は政治力も必要なんだなあと改めて思う。芸は立派だったけど、政治力のなかった人もいれば、政治力だけで生き抜いてきた人もいる。血筋もあちこち絡み合って、今じゃ有名ドコロの歌舞伎役者はほとんどすべてが親戚になっている。この絡み合いがわかったら、これがまた面白いったらない。
 
本の最後が中村勘三郎の死でしめくくられている。これからの歌舞伎界を引っ張っていくのは誰だろう。
 
 
 
ところで、歌舞伎が舞台だというだけで、「ぴんとこな」というドラマを最初から最後まで見てしまった。あれもまた、名門の血筋を引かない才能ある若者と、若くして名門を背負って立たねばならない若者との葛藤の物語だった。歌舞伎のシーンはあまりにもお粗末だったけれど、ついつい見てしまったのは、やっぱり歌舞伎の現実がどこかにあるからかもしれない。それにしても、中山優馬という役者は、美しすぎてお人形さんのようであった。
 
もうひとつ、「半澤直樹」も評判に押されてみてしまったのが、こちらの香川照之(市川中車でもある)はすごかった。あの土下座シーンなんかは、ほぼ歌舞伎じゃないか、様式美じゃないか、と夫婦で語り合ってしまった。見栄を切ったね、彼は。
 
市川猿之助、猿翁は歌舞伎の権力闘争から降りてしまったので、という理由でこの本からほぼはずされているのが残念でならない。あの家も、追ってみたらかなりドラマチックな流れをもっている。
 
ところで、四代目猿之助はずっと歌舞伎座の舞台に立っていない。歌舞伎界の権力を捨てることで幹部に気遣うことなく、好きなコトができるというのが猿之助家の生き方であるが、それには人気と観客動員数が伴わなければならない。血筋にとらわれず、一般の才能を見出そうとしたのが猿之助家であるが、中車を引き入れることで血に回帰しているふうにも見える。
 
香川照之は、素晴らしい役者だが、歌舞伎俳優としてどう生きていくのか、気がかりでならない。どうか潰れないでほしい。大和田常務、見事でしたから。

2013/10/1