武庫川女子大学甲子園会館 その2

武庫川女子大学甲子園会館 その2

2021年7月24日

このホテルには皇族や、有名人が数多く宿泊されたそうですが、米軍に接収されたときに、あらゆる資料が散逸してしまい、詳しいことがわからないのだそうです。

おそらく、ベーブ・ルースが泊まったでしょう、と2ヶ月前までは解説していたそうです。2ヶ月前に、ここの支配人のお子さんだったという老婦人が見学にいらして、いろいろな思い出話をしてくださったそうです。ベーブ・ルースのサインを欲しがるファンを、支配人は押しとどめたのです。が、子どもなら大丈夫だろうと、ファンたちは、お盆にボールを山盛りにして、こっそり彼の部屋に、子どもだったそのご婦人を送り込んだそうです。ルースは、こころよく、たくさんのボールにサインをしてくれたとか。その証言を得て、晴れて、「ベーブ・ルースが宿泊しました」と断定して解説ができるようになった、ということでした。そのご婦人は90歳を超えてらしたので、間に合ってよかった、と解説の方は笑っていらっしゃいました。

このホテルでお見合いをした想い出のある老婦人も見学に来られたそうです。この部屋でした、ここはドアではなくカーテンでした、とその方は昔の様子を教えてくださったそうです。とても良いご夫婦だったそうで、初めて旦那さんに出会ったその場所に再訪して、足が震えていらしたそうです。

当時使われていた食器。ホテルにはひとつも残されていなくて、ここの従業員だった方の遺品から寄付していただいたとか。

ボロボロにされていた建物を修復再現し、当時の様子を、関係者に尋ねながら調べていく。この建物が、大切に保存されていることがよくわかります。沢山の愛情を受けて、この建物は継承されています。

甲子園会館の模型です。大学本館にあったものを、皇太子殿下が見学に来られたときに持ってきたら、ちょうとぴったり廊下に収まった、と解説の方が笑っていらっしゃいました。


2つ突き出ている塔は、煙突だそうです。当時には珍しく、夜はライトアップされ、ネオンサインもあって、それは美しかったそうです。

これは、ホールの暖房、スチームラジエターのカバーです。これはレプリカ。本物は、戦時中の金属徴用で全て取られてしまったそうです。倉庫の片隅に、たった一個、残っていて、それには点々と金色が残っており、当初はこれも金色に輝いていたことがわかりました。

戦争のため、14年でホテルの役目を終えたこの建物には、その他にも、様々な戦争の爪痕が残っています。会館の周りは、当時は松林だったそうで、今でも何本かの松が残っていますが、どの松の木も、地面近くの幹に、ハート型の傷跡があります。これは、松根油を採ったあとなのだそうです。

食糧難で、ろくにご飯も食べていないような子どもを働かせて、松から松脂を撮り、それを精製して、松根油を作ったのです、と解説の方は言われます。自分は化学屋なのだからわかるが、完全に精製をすれば、松根油でも、確かに飛行機は飛ぶ。そこまでしてアメリカと戦ったのか、バカだなあ、と思う一方で、当時の日本人は根性があったなあ、とも思う。そのころ私が生きていたら完璧に精製してあげたのに、と思ったのだけれど、それはダメでした。なぜなら、精製工場が、空襲ですべてやられていたからです。結局、松根油で飛行機は飛ばなかったのですよ、と。

笑いながらのお話でしたが、子どもたちを働かせた話のとき、悔しそうな顔をされていたのが印象的でした。見学者の中には、子ども時代、松根油を実際に絞る作業をしていた方もいらして、「え!飛ばなかったんですか?あんなに頑張ったのに。」と言われたそうです。

昭和の薫りの色濃く残るこの建物では、映画やドラマのロケが時々行われるそうです。「戦争末期に、外交官たちが集まって敗戦処理の相談をするドラマの、スウェーデンのホテルが、実はここだったんです、ちょうどあなたのいるそこ、そこが当たりです。田村正和が座ってたんです。それから、「落日燃ゆ」の2・26事件の首相官邸、あれも、ここなんですよ。」

すべて見終わって、東日本大震災復興支援の募金(見学者は全員200円を募金しました)のお礼に、大きな松ぼっくりをおみやげに頂いて、見学会は終わりました。

解説してくださった方は、ここに来て四年目だそうですが、この建物を解説して周ることをとても楽しんでいらっしゃるのがわかりました。建物への愛情が、言葉の端々から深く感じられます。67歳だそうですので、定年後のお仕事でしょうか。本当に、日々を楽しみ、人生を楽しんでいる様子が見て取れて、建物もさることながら、この方のお話を聞けたことにも感謝したいと思いました。機嫌良くあることは、大人の役目だ、と、どこかで読んだことを思い出しました。こんなふうに機嫌の良さを滲み出せる人になりたい、そんな老後を迎えたい、としみじみ思ったのです。

楽しい一日を、ありがとうございました。

2011/11/22