歳月

歳月

2021年7月24日

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「歳月」 茨木のり子 花神社

詩人・茨木のり子が、自分の死後に出版する意思を花神社に伝えていたという詩集。先立たれてから三十一年間、夫への思いを書き綴った詩集である。一種のラブレターのようなものだから、自分が生きている間は恥ずかしいので公表しない、と甥に語っていたという。

読んでみて、なるほど、茨木さんが公表しなかったわけだ、とわかる。生真面目て、まっすぐな彼女らしからぬ、艷めいた、上気した、女性の息遣いが描かれている。

それにしても、茨木さんも、夫の三浦安信さんも、幸せな結婚をしたのだな、と思う。
「一人のひと」という詩に、私は心打たれた。

ひとりの男(ひと)を通して
たくさんの異性に逢いました

と彼女はいうのだ。

なんて豊かなことだったでしょう
たくさんの男(ひと)を知りながら
ついに一人の異性にさえ逢えない女(ひと)も多いのに

(引用は「一人のひと」詩集「歳月」より)

2011/5/11