消えたママ友

消えたママ友

155 野原広子 KADOKAWA

久しぶりに図書館の書棚を眺めて歩いた。コロナ禍以降、書評で読みたい本を見つけては図書館サイトで予約を入れ、それをカウンターに取りに行くだけになっていた。書棚を眺めて歩くなんて何年ぶりだろう。以前は当たり前のように図書館内を歩き回って本を選んでいた。お目当ての本も、題名や作者名をもとに自分で書棚から探し当てた。そうやって本を探していると、思いもよらない本と目が合い、「私を借りて」と囁かれることがあった。何の興味も予備知識もないのに、秋波を送ってくるそんな本を借りてみると、思いもよらない世界に出会うことがあった。私の読書生活は、そうやって少しずつ広がったのだ。

さて、本日である。何のジャンルかも考えずに書棚から書棚へとぶらぶら歩いていたら、教育関連のお堅い本の間に、なぜかコミックスが一冊挟まっていた。題名はミステリ風。パラっとめくって、すぐに読めるお手軽本だと考え、深く考えずに借りた。思った通り、あっという間に読めたのだが、怖い本であった。

保育園の仲良し四人のママ友。子ども同士には、言わずとしれたトラブルが頻発するが、それでもグループはそれなりに平穏を保っていた、はずである。だが、その中の一人のママが突然消えた。お仕事をスマートにこなし、優しい義母とイケメンの夫と仲良く一人息子を育てていた有紀ちゃんが。前日まで、遊びの約束をし、何事もない様子だったのに。そこから、様々なうわさが飛び交う。男がいたらしい、不倫していたらしい、子どもを捨てるなんて最低だわ、と。保育園に送り迎えに来る義母も夫も、あんな女だったとは思わなかった、としか言わない。だが、残された三人のママ友は、それぞれに有紀ちゃんの断片を知っていた。心を痛める三人の関係の中にある日、有紀ちゃんが・・。

怖い本、と言ったのは、とても特別なケースのように見えて、実はどこにでもある物語だったからだ。世の中の家庭は、どこも表面上うまくいっているように見えて、その実、中はブラックボックスである。ひとたび家庭という閉ざされた箱の中に入れば、思いもよらない出来事が起きていたり、異常な事態が当たり前のように行われていたりもする。そして、仲が良いように見えるママ友グループもまた、それぞれに様々な思惑が渦巻いていたりするものだ。

それでもこの作品に希望があるのは、このママ友四人が、それぞれに互いを思いやる心も、自分に正直になる勇気も、ほんの少しずつは持ち合わせているからだ。人は、どこまでも意地悪や悪意の塊になることは難しい。どんなに心の闇を抱いていても、どこかには優しい気持ち、いたわる気持ちもきっとある。すべて本当の正直な気持ちだけで生きることはできなくても、どこかに真実のかけらは常にある。それがあるから、人は人と助け合えるのだ。

子どもを育てた経験のある女性は、これを読んで、みんなどこかで身につまされるのではないか。逆に、子育てにほぼ関わらずに妻任せにしていた夫たちは、これを読んで鼻先で苦笑して見せたりするのだろうか。ありきたりだけれど、心をぎゅっとつかまれるような、痛い、怖い、でも、わかるわかると頷いてしまうような漫画であった。