牧野富太郎の恋

牧野富太郎の恋

22 長尾 剛 朝日新聞出版

昨年の秋、高知旅行で高知県立牧野植物園へ行った。良い植物園であった。東京の練馬区立牧野記念庭園にも行ったことがある。小さいけれど、緑にあふれた気持ちのいい庭園であった。

牧野博士は植物学者で大きな業績を残した人だ。たくさんの植物を採取し、標本を作製し、細密画を描き、分類、分析し、記録を残した。そんな彼の生涯を、彼を支え続けた妻の姿を中心に描いたのがこの作品である。

牧野富太郎は商売と酒造を営む土佐の大金持ちの家のボンボンである。幼いころから植物に大きな興味を示した。好きなことを好きなだけやらせてやればいつか落ち着いて家業に精を出すようになるだろうと育ての祖母は考えたが、そうはいかなかった。東京へ行くというので大金を持たせて送り出したら、大学の植物学者と意気投合し、神保町の本屋でここにある本ぜんぶくれ、と高価な専門書を買いあさっては実家に送り付けた。一度実家に戻ったものの、東京に舞い戻り、植物学の本を出すには出版社にかけあうより印刷屋を作って自分で出したほうが早い、と印刷業を学んだりもする。湯水のごとくお金を使って植物学につぎ込んでいくのである。

印刷屋で技術を学ぶ行き帰りに通りがかる和菓子屋の娘が気に入ったらまた「ここにある饅頭ぜんぶください」をやってしまう。そうして、その菓子屋の娘を嫁にする。それが寿衛夫人である。故郷の家業は傾き、ついにはつぶれてしまう。妻の寿衛は借金取りと対峙し、時に待合を営むなど金策に走りまわりながら、生涯13人の子供を産む。家に借金取りが来ているときは玄関に赤い旗を出して、博士に帰らないよう合図していたという。そんな夫人の苦労をよそに、博士は植物採取のため飛び回り、好きなだけ資料を買いあさり、しかも共に研究に励む若い人たちに常に大盤振る舞いをしていたという。

寿衛夫人は55歳で亡くなる。だよなー。13人子供を産んで、ずーっとお金のことで悩み続けたんだもの、そりゃ早死にするよなー。牧野博士は、お金と育児の苦労をぜーんぶ奥さんに押っ付けて、自分は好きなことをやり通した。それはとても立派なことだったのだろうけれど、奥さんはどれだけ大変だったのだろう。夫への愛があったからできた、と言えばそれまでだけど。この本では決して批判的に描かれてはいないのだけれど。でも、なんだかなー、と思ってしまった。どんなに愛していても私には無理。まあ、私ほど人間が小さくない方だったのだろうとは思うけれどね。でも、妻が借金取りに頭下げてるのに、後輩に牛鍋をやたらとおごったり、どんどん子供を作っちゃったりするのってどうよ、と思わずにはいられない。牧野さんは、自分のやりたいことで頭がいっぱいだったんだろうな。そういう人だったのだろう。そういう彼を妻は好きだったのだろうけれど。でもね・・・・。

この春からの朝ドラは、牧野富太郎の話だそうです。あんまり朝ドラは見ないんだけど、見てみようかな、とは思いました。悪口描いちゃったけど、牧野富太郎さんのこと、私は好きよ(笑)。