硝子戸のうちそと

硝子戸のうちそと

2022年1月26日

9 半藤末利子 講談社

作者は夏目漱石の孫、昭和史研究家の半藤一利の妻。新宿区立漱石山房記念館名誉館長。六十の手習いで文章を書き始めたというが、背筋の伸びた、しゃっきりとした良い文章である。

世間の漱石への思い込みを正したり、ご近所付き合いについて程よい距離感で書いたり、周囲の人々へのフラットなリスペクトにあふれた文章が小気味いい。最後はご主人を見送るまでの経過が描かれていて身につまされる。父を送った後の母と重なる部分もあるし、自分自身も、もし、夫を先に失ったら、と思うと胸がふさがれる。

それにしても漱石は妻を殴ったのか。漱石の娘も、軍人に嫁して殴られていたのか。昔の夫は妻を簡単に殴ったのか。井上ひさしのことも思い出して、暗澹たる思いになる。でも、作者の夫の半藤さんは殴ったりしない。夫としても立派な人であった。先に逝くことを謝り、下の世話をさせたことを申し訳ながったという。この本は、最終的には半藤さんへの作者のラブレターなのかもしれないとすら思う。

ところで。たいへん私的なことながら、ここしばらく、臍の調子が悪かった。じくじくと膿が出て痛み、最初に行った皮膚科では、本来外科の担当なのだけれど、と言いながら塗り薬と抗生剤が出された。数日たってよくならないので外科に行ったら「皮膚科は全部間違ってる」と怒りを込めて塗り薬を洗い流された。抗生剤もいらない、ただただ風呂場でよく洗え、と。ところが、数日で腫れ上がり、痛みもさらにひどくなった。で、今朝、外科を再度受診したら血液検査とCTの果てに、局所麻酔で切開手術となった。局所麻酔って、あなた、麻酔注射がものすごーく痛いのよ。麻酔のための麻酔が欲しいわ。

切開したら、なんと粉瘤ができておりました。私、粉瘤体質らしい。前に手首にガングリオンができたし、内臓にも嚢胞がいくつもあるし。というわけで、小指の先ほどの粉瘤を見せられて、おなかの真ん中を切って、痛いのなんのって。痛み止めはもらいましたが、効いてるのか、これ。毎日傷の手当てに病院に行かねばならず、しばらく実家にも顔を出せないなあ。独居の母は「私は大丈夫」と言っていたけれど、88歳なので、心配ではある。

というわけで、本日、私はなーんにもしたくない。病院の待合室で死ぬほど待たされて、本を二冊読み切っちゃったから、その話を書くだけで、あとは全部夫にお願いすることにした。夫よありがとう。

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サワキ

読書と旅とお笑いが好き。読んだ本の感想や紹介を中心に、日々の出来事なども、時々書いていきます。

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