空飛ぶ馬

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2021年10月17日

84 北村薫 東京創元社

言うまでもなく、北村薫のデビュー作である。だのに、私はこの本を読んでいなかった。ということに気がついたのは、ちょっとしたお出かけに持ち歩く小さめの本がなかったので、夫の書棚からこれを引っ張り出したのである。パラパラめくったら、覚えがない。最近メキメキと力のついた老人力の賜物かと思ったが、出先で延々読んでも新鮮なので、やはり初めて読むらしい。どうやらこの本、夫が2000年辺りに買ったらしいのだが、その頃私は育児にヒイヒイ言っていて、読む余力がなかったものと思われる。その後、落ち着いてからの北村作品はあれこれ知っているが、これはまだなんだなあ。

女子大生の日記的な日常の謎を解くミステリである。そこに、落語家の春桜亭円紫が絡んでくる。この円紫がまた、なかなかいい男である。「中野のお父さん」シリーズのテイストはこのあたりから始まっていたのか。

主人公は、いかにもかつての女子大生である。ちなみに彼女の通う大学は、どう考えても私の母校であって、校舎への道や周囲の環境など、ピタピタと分かってしまうから、個人的にも楽しめる。まだ携帯もない頃の素朴な女子大生の生活が懐かしい。化粧っけも色気もない女子大生。あのころは、みんなそんなもんだったなあ。

このデビュー作では北村薫はまだ性別を明らかにしていなかったので、女子大生風の作者が想像されていたらしい。今となっては笑える。おじさんだとすっかりバレてしまっているからね。でも、なかなかみずみずしい文体で、そうねえ、女子大生だと思わせる力は十分にあると思う。

円紫さんシリーズは、まだ残っている。ということは、これから、まだまだ読めるのね。と、ちょっと嬉しくなった私である。よしよし、少しずつ読んでいくぞ。