自慢話でも武勇伝でもない「一般男性」の話から見えた生きづらさと男らしさのこと

自慢話でも武勇伝でもない「一般男性」の話から見えた生きづらさと男らしさのこと

2022年3月10日

32 清田隆之(桃山商事) 扶桑社

作者は桃山商事の代表だそうだ。桃山商事とは「恋バナ収集ユニット」なんだそうで、聞くからに胡散臭い。が、この本を読んでみるとそうでもない、気がする。何を考えているかわからない男というものについてまじめに調べ、考え、説明しようという姿勢がある。女から見てわからない男というものに真正面から取り組んでいるようである。

例えばケンカや話し合いになったとき、「なぜあんなことをしたのか」「そのとき何を思っていたのか」「これについてどう感じているのか」と問うても男性たちから具体的な答えはほとんど返ってこない。言動の背景にある理由や感情が見えず、気を遣っているんじゃないか、嘘をついていいるんじゃないか、本音を隠しているんじゃないか・・・・と推測が止まらずモヤモヤが募っていく。そんな女性たちの話をたくさん聞いてきた。(中略)
また、近年は男の人から恋バナや悩み相談を聞く機会も増えているが、全体的な傾向として見ると、そこで語られるエピソードは女性たちから聞くそれに比べてずいぶん漠然としているように感じる。具体性やディテールに欠け、そこにある感情や因果関係もなんだか見えづらく、全体像をつかむのに苦労することが多い。
(引用は「自慢でも武勇伝でもない「一般男性」の話から見えた生きづらさと男らしさのこと」清田隆之より)

この本では十人の「一般男性」から話を聞いている。出版に当たっては仮名を使ったり状況を若干変えたりとフェイクを入れてプライバシーを保護しているが、概ねは本当のことであるという。私が一番感じたのは、彼らは「人にどう見られるか、どう評価されるか」ばかり気にしていること、とりわけ「女の子にモテるか」が自己存在に大きな価値、あるいは問題として立ちふさがっているということだ。

仕事先で認められ、順調に出世していても、自分の無能がいつかばれるのではないかと心の底でびくびくしていたり、良い学歴、ルックス、コミュニケーション能力をもってしてもなお、女性との恋愛がうまくいかないことにコンプレックスをもったり、逆に結婚した相手は自分をすべて受け入れるのが当然だと思い込んで暴力をふるい、妻子に逃げられて初めて自分が間違っていたらしいと気が付いたり、EDに悩みながらマッチングアプリで出会った複数の女の子と性的な関係を持ち、今は「結婚歴」が欲しいと願っていたり。彼らは驚くようなコンプレックスを抱え、それを決して人に知られないように、知られないように生きている。それらは「本音」であるから、現実には絶対に人には話さない、とりわけ女性には決して言えないような内容だ。

つまるところ、「何者でもない自分」を受け入れかねて、特別な自分、すごいと言われる自分、称賛される自分になりたいのになれない中でじたばたともがいている男性がとても多いということだ。男ならひとかどの者にならねばならないし、女性からも頼られ、夢中になられなければならないという自縛があるのだろうか。

わたしが思い出すのは鶴見俊輔の言葉である。

どんな人でも、家の中では有名人なんです。ー人間がそれ以上の有名というものを求めるのは間違いではないかと思いますね。(朝日新聞2015年11月15日)

だが、もしかしたら彼ら男性の多くは「男なんだからしっかりしなさい」「男なんだからもっと頑張らねば」と育てられたのだろう。家庭の中ですら「今のままではだめ」「まだまだ」と全的に認められることなく生きてきて、自己承認欲求が満たされず、自己肯定感を持てずに、大人になったのかもしれない。女性からの称賛は、おそらくそれへの特効薬に見えるのだろう。(だが、それすらも本当は特効薬ではないよ、と「コブのない駱駝」で北山修が言っているように私には思えるが。)

男性の生きづらさは、女性の生きづらさと表裏一体をなしているのだろう。男が自分を偽ってでもかっこよく、モテるかのように装って生きている限り、女は本当の男と向き合い、かかわりあうことができず、彼らの見てくれのカッコよさに付き合わされたりその装飾品であることを求められなければならなくなる。それはとてもむなしいことなのに、本当の自分を生きる勇気がない男が多い、らしい。

でも、そんな男ばっかりじゃないし、本当にきちんと人と向き合ったり自分を見つめたりできる男、あるいは女、つまり人間は、人からどう見られるか、なんてことから解き放たれて、自分がどうありたいか、どうあるべきかを自分で考え判断し選択できるようになるものだ。そのための第一歩が、今の自分がどんな状態にあるかを把握することなのだとしたら、この本はそのために役立つのかもしれない。

一般男性が抱えているこうした悩みを、そんなのはあるあるだけど、本当は気にしなくてもいいことなんだな、と気が付く人が増えたら、もう少し男にとっても女にとっても生きやすい世の中になっていくのかもしれない。

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サワキ

読書と旅とお笑いが好き。読んだ本の感想や紹介を中心に、日々の出来事なども、時々書いていきます。

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