輪違屋糸里

輪違屋糸里

2021年7月24日

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「輪違屋糸里」 浅田次郎 文藝春秋

「新選組血風録」でXANTHさんに紹介していただいた本。XANTHさん、ありがとうございました。

芹沢鴨を京都島原の花魁の視点から描いた物語。狂犬のような鴨が、実は、男の中の男だったのでありました。

新選組って、今まであんまり興味なかったけど、読みだすと、確かにこれはいろいろイメージを重ねて物語が作られるものだなあと思う。水滸伝みたいなもので、いろんなキャラがいるし、それぞれがドラマを持っているし、誰もが誰かに思いを投影できる余地がある。ふくらませがいもあるというものだ。

でも、本当のところはどうだったんだろうね、どんな人達だったんだろうね、と夫に言ったら、そう考えることが、また新しい物語の発端になるんだね、と。なーるほど、と思いました。

この物語には、不逞浪人をばかすか切り殺しまくるシーンがないから感じないけれど、彼らはじつはとんでもない殺人集団だったことは間違いないわけで。それを思ってしまうと、私はもう、共感とか同調とか、そういうものから一歩も二歩も離れてしまう。時代が違う、性別が違う、それはたしかにそうだけどさ。

この物語はとても面白く、また、胸をうつものがあるのだけれど。それでも、どこかで、こんな物語を喜んでたまるか、と思う私がいる。

幼い頃に貧しい農村から売られて来た綺麗な女の子が、苦労して芸事を身につけて、売れっ子の花魁になる。そうして、うら若いその花魁は、美しい綺麗な心で、人斬り浪士のために命をかける、身を投げ出す。

いいのか、それで。と思うのだ。
顔も体も心も綺麗で犠牲になることを厭わない女ばっかり出てくる物語って、なんなのよ、てどこかで思う。これって、男の妄想、幻想の世界だ。綺麗過ぎる。女が書いたら、絶対にこんな物語にはならないだろうって思ってしまう。

そう思う私の心は、あんまり綺麗じゃないってことなのかもね。

2011/8/8