近親殺人 そばにいたから

近親殺人 そばにいたから

2021年11月21日

100 石井光太 新潮社

石井光太の本は、いつだって痛い。読むのが怖いのに、また読んでしまう。目をふさいではいけないことを教えられるからだ。そして、それは、私自身の心の中にもあるだろう闇につながっているからだ。

日本では、殺人事件の半数が、家族を主とした親族間で起きている。殺人事件の認知数は1954年をピークに年々減少しており、2013年には初めて千件を下回って、近年は八百から九百件台で推移している。が、親族間の殺人事件の件数はここ三十年程四百から五百件台のままで、割合としては高まっている。つまり、家庭という場所は、それほどに危うい状況に置かれているのだ。

コロナ禍におけるステイホームは家庭内で過ごす時間を大幅に増やした。その結果として家庭内暴力や児童虐待の件数は増加しており、家庭という場所はさらに危うさを増している。それは弱者が虐げられる、という単純な構図ではない。家庭内では加害者が被害者になり、被害者が加害者になるという逆転現象がいつでも起きる。虐待された者が思い余って相手を殺したり、被介護者が介護者を極限まで追い詰めて自死に追い込むこともある。自助努力では解決できず、公的支援は追いつかない。

人はどんな理由で家族を殺すのか、そんなことが起きてしまう家庭とそうでない家庭との差は何なのか。それを考えるために、実際に起きた事件が七つ、丁寧な取材のもとに描かれている。だが、読み終えて、どうしたらよかったのか、どうすればそれが防げたのか、簡単に答えることはできない。ただ、言えるのは、大事なのは共感しあうことであり、理解しあうことであり、また、時に外に助けを求めること、逃げることも選択すべきだということである。誰かのためでなく、自分のために生きること、自分を大事にすることを決して放棄してはいけないということである。

家族は難しい。血がつながっているというただそれだけで、いろいろなことが許されるわけではない。簡単に分かり合えるわけでもない。それぞれが違った人間であり、自分と家族はまた全く別の人間である、ということを今一度確認しながら、自分にできることを探していく。そうした家族との関係性を考えてみなければならないような気がする。