銀の夜

銀の夜

2021年7月8日

51 角田光代 光文社

僅かな収益しかあげられないイラストを描いている千鶴。早くに結婚して我が子をタレントにしようとしている麻友美。ライターになったり、写真家を目指したりしている伊都子。三十代の三人は、高校時代少女バンドを組んでメジャーデビューしたこともあった。これからの人生を、どうやって生きていこうかと三人三様に探し求める日々。

夫の浮気を嫉妬すらできず、いじらしいような気持ちさえ持ってしまうちづる。おとなしい我が子を無理やり芸能人に仕立て上げようと無理強いし、そのせいでママ友の輪からも浮き上がるCじぶんがははおやのかちかんにそうためだけにいきてきた、と三十歳にもなって初めて気がつく伊都子。それぞれがありがちな問題を抱えながら生きている。

タレントを諦めた麻友美は次はお受験へとシフトするし、ちづるは夫とは別の男に出会って夫との別れを考え始める。母親の呪縛に気がついた伊都子はそこからの脱却を図る。・・・だけでは、ありがちの展開なのだが、さすが角田光代。その母親が病に倒れるや、伊都子の脱却劇はギュイン、と角を曲がり、残りの二人も巻き込まれる。そうは簡単にいきませんよ、というわけだ。

この小説、仕事場の掃除をしていてでてきたものだそうだ。一体いつ書いたのかもわからない、と言っていたら作家の宮下奈都さんが「VERYに連載していたものでは?」と教えてくれたという。そんなに忘れてしまうものなのか、と驚くね。2005年から2007年にかけて連載されていたものだそうで、なるほど、ちょっと時代が遅れている感じはした。まあ、忘れてしまう程度の小説なのかもしれないけれど、つまり、それくらい割に陳腐なテーマや素材ではあるのだけれど、それでも、この三人がその後どんなふうに人生を歩んだのかな、と気になってしまうほどには、彼女たちはちゃんと生きていた。私達が抱えがちの問題と、ちゃんと向き合って生きていた、と思う。