つまらない住宅地のすべての家

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2021年12月3日

109 津村記久子 双葉社

津村記久子を読むのは「サキの忘れ物」以来かなあ。いつ読んでも 津村記久子 はやっぱり良い。

どこにでもいる、それほど楽しいことも何もない、ごく普通の、ただただ日常を営んでいるような人ばかりが出てきて、それでもそれぞれに少しずつ問題を抱えていたり、困っていたり、実はすごいことを考えていたりして、そういう人たちが、どんな風にちょっとずつ変わっていくか、良いものを得ていくか、という過程を描くことに、この人はとても長けている。そう思っていたら、この物語では、小さな住宅地の一角の何軒かの家の人々を一人ずつ描き出しながら、最後に一つの事件を解決させ、それぞれが自分なりの新しいものを手に入れていく。それは本当にささやかな、わずかな変化なのだけれど、それがどんなに人を生きかえらせるか、新しい一歩となりうるか、ということが、大げさでもなく、わざとらしくもなく、淡々と描かれていて、ああ、だから津村記久子は素晴らしいのだな、と気づかせてくれる。

ネット社会も悪いものじゃない。道を外しかけた少年も、どう生きていったらいいかわからない青年も、顔も知らないままに助け合って、何とかやっていけるようになることもある。そればかりじゃないことも知っているけどさ。でも、未来は悪いことばかりじゃない、とは思えてくる。津村記久子は、やっぱりいいね。

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サワキ

読書と旅とお笑いが好き。読んだ本の感想や紹介を中心に、日々の出来事なども、時々書いていきます。

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