BUTTER

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2021年7月24日

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「BUTTER」柚木麻子 新潮社

「ナイルパーチの女子会」以来の柚木麻子である。正直、「ナイルパーチ」の読後感はあまり良いものではなかった上に、それがどんなストーリーだったのかすらよく覚えてない。ただ、女性が友達を持つということの意味をくどいほどに探し当てるような物語だった覚えがある。

この「BUTTER」は木嶋佳苗をモデルにしている。気がつけば、私は木嶋佳苗をモチーフにした本を何冊も読んでいる。「別海から来た女」「毒婦。」「夜は終わらない」。その他に「結婚」「みずいろメガネ」も木嶋佳苗について言及している。東電OL事件もそうだが、彼女たちの犯罪は、多くの女性達の心をとらえるなにかがある。

主人公は雑誌記者の女性である。木嶋佳苗をモデルにした梶井真奈子という犯罪者についての特集記事を書くため、拘置所に面会を申し込む。梶井真奈子は中年や老人男性を相手にした婚活殺人事件の容疑者である。多くのライターたちが門前払いを食う中、彼女が男性たちに作ってやったという料理のレシピを尋ねることで、主人公は面会を可能にする。そこからは、梶井が最も好きだというバター料理を食べ、感想を述べることで何度も面会を重ね、独占記事に向かっていく。

この本も「ナイルパーチ」と似たところがある、すなわち、女性にとっての友達とか人間関係がテーマになっている。「ナイルパーチ」では、友だちがいるということにやたらと依存的なものを感じて嫌気が差した(らしい・・よく覚えていない)私だが、この本ではかなりこなれているように感じる。

女性のミソジニーが副題としてあるのかもしれない。人間関係に疲れた女性の多くは「女って〇〇だからいや」のようなことをいいたがる。それをいうとき、いったい自分が女だということは、どこへ行くのだろう?と私はいつも疑問である。自分は「いわゆる女」ではない、男性的な女なのである、という論旨で自分を安全な場所に置きたがる女は多いけれど、じゃあ、いわゆる男性的な女って何?そもそも、男性は、理想的な人間関係を持っている存在なのか?と考えると、もう、そんな論は破綻しているとしか言いようがない。

で、この本は、そういったミソジニーを超えた、男も女も含めた、程よい距離感を持ちつつ互いを支え合うような人間関係のあり方を求めているのだろうと思う。美味しい料理を通じて、皆がほんわかと幸せになれることの意義も、同時に。つまり、ここにあるのは例の「アッコちゃん」シリーズの骨格でもあるのだ。

梶井真奈子の根底にあるのは切実な寂しさである、という指摘は、木嶋佳苗にも当てはまる、のかもしれない、と私は思う。人は、誰かを信じたいし、誰かとつながり合いたいものだ。そして、それは恋愛などという情熱的なものだけではなく、もっと穏やかな、風通しの良い、程よい距離感のあるものだったりするのだ。

もう一つ、木嶋佳苗がいわゆるデブブスだったことを揶揄する風潮に対して、既に北原みのりが「毒婦。」の中で、実は彼女は魅力的でさえある、と指摘しているところである。女性にスマートであること、努力することを求める風潮への一石もまた、「BUTTER」の中で投じられている。様々な息苦しさを超え、心地よく生きることへの指向性がこの物語にはある、と私は感じた。

ところで、ここで今年度の読書記録を総括する。2017年度は183冊だった。昨年度より一冊少ないけれど、わりに良いペースだったと思う。

実は、今月末に、五年間の東京生活を終えて北関東へ転居する。例によっての転勤だが、今回は子どもたちがいない、夫婦二人の引越なので、思いがけないほど身軽である。なんと言っても、学校の手続きがない、転校への不安がない引越というのはこれほど楽なものか、と感心してしまう。

息子は長い北海道生活を終えて、東北の大学に勤めることとなった。ついでに結婚もするそうだ。あの小さくて臆病者だった坊主が結婚か・・・と感慨深いものがある。娘は相変わらず関西の大学で忙しくしている。私達は、北関東の温泉や高原を思い切りエンジョイしようと計画中である。

というわけで、引越のため、おそらく4月までブログを更新できないと思うけれど、また来年度もよろしくお願いいたします。

2018/3/27