147 マシュー・デニソン 株式会社カンゼン
9月に96歳で亡くなったエリザベス女王の伝記。分厚くて結構読み通すのが大変だった。だとしても、世界史音痴の私にはいろいろ勉強になったことは確かだな。彼女の一生を追うことで、その時代の歴史の動きがわかる。ということは、彼女は世界の中心、あるいはそこに近い場所にずーっといたということだ。そりゃ大変だったよな。
つまりこの人は、一瞬たりとも普通のただの人ではいられない生涯を送ったわけだ。それはごく幼いころからのこと。しんどいよなあ、と思うね、やっぱり。
私が知っているのはダイアナとチャールズの結婚のあたりからで、それ以前は昔の話と感じられる。女王であり続けることに強い意思を持ってきた人だということはとても分かるけれど、家庭人としてはなんかうまくいかないなあというところがあった。一目ぼれしたフィリップと結婚できたのはいいけれど、男らしさ、自立心を最上の美徳とした夫とうまくやっていきたいがために、夫婦間の問題と女王としての責任との板挟みになったり、子育てで意見できなかったり。内向的でおとなしいチャールズを荒っぽい私立学校の寮に放り込んで、学校に戻りたくないと怯える息子をフィリップがひどく叱りつけたりしたエピソードは読んでいてもつらい。エリザベスはそれを客観的に見ているだけで、何も言わない。チャールズは学校でかなりいじめられたらしい。母親がそれを守ってくれることも、関心を持ってくれることもなかった。だから、カミラみたいな年上の守ってくれそうな女性が必要だったんだろうか。
幼い頃のエリザベスは、いわばアイドルのように国民に愛されていたようだ。そのころからカリスマ的な魅力があったのかもしれない。そこに存在するだけで、信頼と尊敬とオーラがある感じ。感情をあらわにせず、落ち着いてふるまうことを幼いころから叩きこまれたのね。でも、そのせいで、家族に対しても感情を爆発させたりはしなかったわけだ。
生まれたら、王族だった、というのはやっぱり責め苦だよな、と思う。日本の皇族方もそうだろうな。生まれてきただけで、別に特別の能力や実力を持っているかどうかは定かじゃないのに、生まれつき人の上に立つことを強いられてそこから絶対に逃げられない、一生注目を浴びながらしか生きていけないというのはひどく理不尽だ。どんなに経済的に恵まれていようと、環境的に最上のものを与えられようと、人としての自由がどこにもない一生は奴隷みたいなものだと思ってしまう。
でも、エリザベス女王は、女王であることを楽しんで一生を過ごしたのかもしれない。これを読む限りでは、そんな気もする。読み終えるのに大変だったし、結局登場人物の名前をちゃんと覚えられもしなかったし(笑)、雑な読み方ではあったけれど、読んで得たものはわりにあったと思う。