ヴェネツィア 水上の迷宮都市

ヴェネツィア 水上の迷宮都市

41 陣内秀信 講談社現代新書

旅の途中で、ついに読み本が尽きてしまった。なので、夫がもってきた本に頼ることに。こういう機会に、自分では選ばないような本に出会えるのも悪くはないし、しかも、ちょうどこれからヴェネツィアに向かおうという場面でのこの本はベストタイミングだった。

ヴェネツィアは不思議な都市である。水の上に作り上げられたいくつもの島が橋でつながれ、運河が入り組んで、人々は水上交通で移動する。都市内部は一切の車もバイクも、自転車すら走らない。迷路のような道はどこへ行くのか定かではなく、時として行き止まりにもなる。そんな都市がどのように作られ、そこで人々がどのように暮らしているか。作者はヴェネツィアにかつて留学し、そしてまた一年間、研究のためにこの町に滞在することを得た。その経験から書かれたのがこの本である。

ヴェネツィアの浮島、迷宮、交易や市場、劇場、広場といったテーマが歴史的な背景と共に書かれている。が、その一方で「ヴェネツィアっていいぞ、俺、こんな楽しんじゃったもんね」的な自慢というか、うれしくってならない作者の気分がひしひしと伝わってくる。それに少々鼻白みつつも、一緒に楽しめもしてしまう、そんな本である。

これを読んだ後で実際にヴェネツィアに行ったら「あ、これはあの本に書かれていたカンポ(広場)だな」とか「これは例の街角にあるマリア像ではないか」などなど、とても役に立った。なので、もしヴェネツィアに旅する予定のある人は、ぜひ一読されるといいと思う。